私に恋を教えてください
金額的には、正にそれくらいのものだった。
それよりも莉子の慧眼だ。
やはり成功する人物というのは、見る目が違うんだ、と改めて柚葉は思った。

金額や行動にも動揺しない柚葉を、莉子には見破られていたのだろう。
「このビルは祖父の持ち物で、父が経営しています」

ここは駅前のタワービルだ。
とんでもない物件なのは、考えなくとも分かる。

「ビルだけ?」
「いえ、他にも」

榊原トラストは不動産関連の会社だが、グループでは多角的に経営をしている。
ビル管理もそうだしそれに派生するものは人材派遣から、コンシェルジュサービス含め他にも、高層ビルに関する企画やマンションの保有等々である。
もちろん、今は都市開発にも着手している。

「お嬢様なのね。駆琉は知っているのかしら?」
「はい。先日うちに……偶然だったんですけどご挨拶に来てくださってその時に。駆琉さんは私が入社した時からご存知だったと聞きました」

「そうなのね……」
「あの……私、ダメですか?」

「ん? 何が?」
「私、今までとても大事にされて育ってきたんです。社会に出て初めて分かりました。今も駆琉さんが大事にしてくださっている。私も大事にしたいんです」
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