【完結】打算まみれの恋
「これも、これもちゃんと捨てる! 緋奈さん手帳!」
そう言って開かれた手帳の中には、どうやら私と思わしき人物のデッサンや、仕草のメモが手帳一面をびっしりと埋め尽くすようにして記されていた。滝永さんの手からそれを手に取ると、ほかのページもポージングや表情は違えど同じように私が、様々な服を着て描かれている。
そのどれもが優しいタッチで、さっき性的な言葉を吐いた人間が描いたとは信じられない。それに、これではまるで彼は姉ではなく、私を好きみたいじゃないか。
「なんで私なんか描いてるんですか」
「えっ、好きだから……? このときまだ知り合ってない頃で、写真勝手に撮ったら駄目だし、追いかけたら怖がらせると思って、それで、初めて会ったときの緋奈さん思い出して、どんな表情するのかなとか、想像しながら描いてて、また会えてからは、緋奈さんの仕草とか、癖とか、メモしてて、そうすると緋奈さんが集まってくるみたいで、嬉しくて…… へへ」
「知り合った頃っていつのこと言ってるんですか?」
「去年の、ファッションショーのとき……控室で、じっと黙ってるところ見てて、何となく気になってみてて、そうしたら、緋奈さんのお母さんとかお父さんとか、お姉さんが緋奈さんの周りにきたら、ぱっと笑ってて、その笑顔見て、うわ好きだなあって思って」
昨年の、ファッションショー。私は姉の晴れ舞台を見るために両親と共に会場へ行った。すると姉が控室にいて、色々私に案内をしてくれて、私は邪魔にならないよう黙っていた。でも私は、滝永さんに出会った記憶もないし、話を聞くに接触もしていなかっただろう。