大人になってもまた君と
お酒を飲んでからある程度の時間が経ったからか、それともお水をペットボトル1本分がぶ飲みしたからか。
はたまた、己の身の危険を感じたからか。
一気に酔いが覚めて、私はじわじわと迫ってくる健斗を押し退けるために手を伸ばす。
そんな私の変化に気づいたらしく、彼は黒い笑みをさらに深くした。
「もしかして、酔いが覚めたのか?だとしたらタイミングがいいな。酔いが覚めたとはいえ、身体には力が入んねーだろうし。ふにゃふにゃのままで俺に手を伸ばしたって、そんなのさぁ……」
ぐいっと引っ張られた力に逆らうことも出来ず、健斗の上に大胆にも倒れ込み、いつもは少し上にある彼の顔は今、鼻がぶつかりそうになるほど近い距離にあった。
唇に触れる、と思った彼のそれは予想外にも離れていき……
「可愛いことして、俺を煽ってるようにしか見えない」
耳元で私の鼓膜を小さく震わせた。
そのまま、ちゅっと触れるだけのキスが落とされる。
ぞぞっと背中をなにかが走っていくような感覚に陥って……でも、それは決して不快なものではなくて、甘く、痺れた。
「そういえば、さっき『もっと触って』って言ってたっけか」
「そ、そんなことっ」
「言った。俺の右手を両手で包みながらうっとりしてただろ」
私は酔っていても記憶はなくならないタイプらしい。残念なことに、お店での自分の言動は全て思い出せてしまう。
記憶を辿ると確かに彼の言うとおり、恥ずかしいおねだりをしていたのがあっさり掘り起こされた。
酔っていたからとはいえ、なんてことを……最悪だ。
言い返せなくなったことが悔しくて思いっきり睨みつけるけどもそれも効果はないらしく……
「まぁ、触るなって言われても触るけど」
涼しい顔で遠慮なく私に手を伸ばした。