とある企業の恋愛事情 -受付嬢と清掃員の場合-
第24話 元カレの作戦
美帆はスマホの着信履歴を見てまたうんざりした。
午後七時に一回。午後十時に一回。電話は文也からだ。だが、電話には出ていない。
いい加減諦めて出ればいいのだが、なんとなく素直になれなくて電話に出るのも億劫になる。それもこれも、昼間の出来事が原因だ。
────二人でなにを話してたの? なんで私の方を見てたの?
だからか余計に平然と電話をかけてくる文也が許せなかった。
人の気も知らないで、本当に鈍い男だ。これなら本当に秘書課に移動した方がいいかもしれない。いや、そうしたら古谷に張り合っていると思われそうで嫌だ。
二回の着信を無視した後、寝る前にようやくメッセージが来た。
『お疲れさん。電話出んかったけど大丈夫か? 今日はありがとうな』
短い文章に感謝と気遣いのメッセージ。けれど美帆はまたもや無視してスマホをベッドに放り投げた。
人の気も知らないで勝手な男だ。謝罪するなら人のことをジロジロ見ていたことを謝罪して欲しかった。
明日も文也と古谷は一緒に取引先を回ったりするのだろうか。どうせ雇うなら数人まとめて雇って欲しかった。
次の日は有難いことに秘書課勤務の日だった。だから仮に二人が突撃訪問して来ても問題ない。秘書課の中にいれば絶対に会うことはないだろう。
「杉野さん。今年の中途採用の人とは会いました?」
前の席に座った胡桃坂が顔を上げ、話し掛けてきた。
「えっと……」
現時点で顔を合わせているのは瀬尾だけだ。他は何度か顔だけ見たが、喋ったことはない。
「一人ぐらいしか……まだ。胡桃坂君は?」
「僕、今年の新人研修担当だったんです。一応ほとんどの人と喋りました」
「どうだった?」
「うーん、いい人もいるんですけど、そうじゃない人もいますね。まあ多分、僕が年下で舐められてただけかもしれませんが。あくまでも主観的に感じたことなので、そうじゃないかもしれません」
「そう……まあ、全部がいい人ばかりとは限らないよね。仕事ができる人がいい人とは限らないし」
「ああ、でもすごいいい人はいましたよ。瀬尾さんって方なんですけど、明るくてこう、裏表がないっていうか……みんなの取りまとめ役みたいな、そんな感じの人でした」
その説明を聞いて美帆は大学の頃の良樹を思い出した。良樹はその説明通りの男だった。
だからモテていたのは言うまでもない。きっとこれからもモテるだろう。
良樹と付き合っていた時も女の影は一定数いたが、良樹がああいう性格なので気にすることはあまりなかった。
女性が言い寄って来ても笑顔で断っていたし、全くも持ってそれを悪いとは思っていないようだった。天然というか善人というか、だからこそかあまり深く勘繰らずに済んだのだが。
文也はどうだろうか。悪い男ではない。どちらかと言えば彼は「不器用」という言葉がよく似合う。いつもどこか詰めが甘くて子供っぽい。嘘がつけない────いや、嘘をついてもすぐにバレるタイプだ。
だから浮気なんかした日にはすぐに分かってしまうだろう。それが昨日の二人だったのだろうか。
しょうがなかったとはいえ、文也は一度自分を騙している。確実に好意があると分かったが、こんな時はそれすらも不安の種だ。
好きな人ができたら、文也は簡単に自分から離れてしまうのではないだろうか。
大人気ない対応はやめよう、と美帆は文也にメッセージの返事を送ることにした。
だが、そんな時に限って文也の返事は遅くて、またヤキモキする羽目になった。
午後七時に一回。午後十時に一回。電話は文也からだ。だが、電話には出ていない。
いい加減諦めて出ればいいのだが、なんとなく素直になれなくて電話に出るのも億劫になる。それもこれも、昼間の出来事が原因だ。
────二人でなにを話してたの? なんで私の方を見てたの?
だからか余計に平然と電話をかけてくる文也が許せなかった。
人の気も知らないで、本当に鈍い男だ。これなら本当に秘書課に移動した方がいいかもしれない。いや、そうしたら古谷に張り合っていると思われそうで嫌だ。
二回の着信を無視した後、寝る前にようやくメッセージが来た。
『お疲れさん。電話出んかったけど大丈夫か? 今日はありがとうな』
短い文章に感謝と気遣いのメッセージ。けれど美帆はまたもや無視してスマホをベッドに放り投げた。
人の気も知らないで勝手な男だ。謝罪するなら人のことをジロジロ見ていたことを謝罪して欲しかった。
明日も文也と古谷は一緒に取引先を回ったりするのだろうか。どうせ雇うなら数人まとめて雇って欲しかった。
次の日は有難いことに秘書課勤務の日だった。だから仮に二人が突撃訪問して来ても問題ない。秘書課の中にいれば絶対に会うことはないだろう。
「杉野さん。今年の中途採用の人とは会いました?」
前の席に座った胡桃坂が顔を上げ、話し掛けてきた。
「えっと……」
現時点で顔を合わせているのは瀬尾だけだ。他は何度か顔だけ見たが、喋ったことはない。
「一人ぐらいしか……まだ。胡桃坂君は?」
「僕、今年の新人研修担当だったんです。一応ほとんどの人と喋りました」
「どうだった?」
「うーん、いい人もいるんですけど、そうじゃない人もいますね。まあ多分、僕が年下で舐められてただけかもしれませんが。あくまでも主観的に感じたことなので、そうじゃないかもしれません」
「そう……まあ、全部がいい人ばかりとは限らないよね。仕事ができる人がいい人とは限らないし」
「ああ、でもすごいいい人はいましたよ。瀬尾さんって方なんですけど、明るくてこう、裏表がないっていうか……みんなの取りまとめ役みたいな、そんな感じの人でした」
その説明を聞いて美帆は大学の頃の良樹を思い出した。良樹はその説明通りの男だった。
だからモテていたのは言うまでもない。きっとこれからもモテるだろう。
良樹と付き合っていた時も女の影は一定数いたが、良樹がああいう性格なので気にすることはあまりなかった。
女性が言い寄って来ても笑顔で断っていたし、全くも持ってそれを悪いとは思っていないようだった。天然というか善人というか、だからこそかあまり深く勘繰らずに済んだのだが。
文也はどうだろうか。悪い男ではない。どちらかと言えば彼は「不器用」という言葉がよく似合う。いつもどこか詰めが甘くて子供っぽい。嘘がつけない────いや、嘘をついてもすぐにバレるタイプだ。
だから浮気なんかした日にはすぐに分かってしまうだろう。それが昨日の二人だったのだろうか。
しょうがなかったとはいえ、文也は一度自分を騙している。確実に好意があると分かったが、こんな時はそれすらも不安の種だ。
好きな人ができたら、文也は簡単に自分から離れてしまうのではないだろうか。
大人気ない対応はやめよう、と美帆は文也にメッセージの返事を送ることにした。
だが、そんな時に限って文也の返事は遅くて、またヤキモキする羽目になった。