とある企業の恋愛事情 -受付嬢と清掃員の場合-
昼休憩になって、美帆は久しぶりに外で食事することにした。会社の中にいると文也のことばかり思い出してしまう。
受付勤務の時は制服を着ているから外には行きづらいし、こんな時しか外で食べれない。
「美帆?」
ロビーに降りたところで良樹と出会した。良樹は同僚と思しき男性達数名といた。
「お疲れ様。良樹もこれからお昼?」
「ああ。コンビニで買おうと思ってたんだけど……美帆は?」
「気分転換に外で食べようと思って」
すると、良樹は少し考えるような素振りを見せた。
「それ、俺も一緒に行ってもいいか?」
「え?」
「こっちに帰って来てからほとんど喋れてないだろ?」
「え? でも……」
良樹の横にいる同僚達は口々に言葉を発する。だが、良樹はそれらの言葉を全て「大学の後輩なんだ」で一掃した。
少し複雑だが、美帆も良樹とは喋りたいと思っていた。なにせ数年ぶりの再会だ。本来異性と食事するのは良くないが、ランチぐらいならいいだろう。
「分かった。じゃあ、行きましょ」
「俺この辺は分からないんだ。美帆のおすすめがあったら教えてくれ」
美帆もこの辺りで食事するのは割と久しぶりだった。以前好きだった店がまだあるだろうかと思いながら通りを探す。
その店はまだ存在していた。店の中に入ると、そこそこ人で埋まっていた。美帆は空いている席をなんとか探し、そこに座った。
「美帆と食事なんて何年ぶりだろうな」
「十年ぶりぐらい? なんか懐かしいね」
メニュー表を二人の間に置いて横に向ける。あれから何年も経ったのに昔と同じようなことをしてしまうのは体が覚えているからだろうか。
長くドイツで暮らしていたというのに良樹はちっとも変わらない。
「ドイツ生活が長いのに良樹はあんまり変わらないね」
「デュッセルドルフにいたんだ。日本人が多い街だから実はそれほどドイツ一色ってわけでもなかったんだよ」
「そうだったんだ……」
「でも、まさか美帆と会うなんてな。しかも藤宮に就職してるし、驚くことばかりだよ」
「本当にね。突然だからびっくりしちゃった」
サラダとドリンクが運ばれてきた。美帆がカトラリーケースからフォークを取り出そうとすると、代わりに良樹がそれを出して美帆に手渡した。
「実は、ちょっと気になってたんだ」
「なにが?」
「この間、美帆の彼氏と会っただろう?」
「……うん」
「誤解されたんじゃないかって気になってたんだ。まさか待ち合わせしてると思わなくて、きっと俺がナンパしてると思ったんだろう。悪いことをしたよ」
「えっと……気にしないで。たまたま間が悪かっただけだから」
良樹はずっと気にしてのだろう。こちらこそ悪いことをしたと、美帆の方が申し訳なく思った。
文也が気にしていたことは事実だ。だが、完全な勘違いだ。良樹はそんな人間ではない。今だってこうして気にしてくれていた。
「でも、ほっとしたよ。卒業と同時に美帆と別れて、美帆には悪いことをしたと思ってたから。美帆が幸せになってくれたならそれでいいんだ」
「気にしてたの?」
「そりゃあ俺だって気にするよ。ドイツに一緒に行こうなんて気軽に言えないし、美帆はやりたいことがあっただろう?」
「まぁ、そうだね……。良樹は? 彼女とか作らなかったの?」
「何人かとは付き合ったんだけど、俺は日本に帰るつもりだったから。話が合わなくて別れた子もいるし、国籍違うだけなのにうまくいかないんだよな。難しいよ」
「良樹ならきっといい子が見つかるって」
「美帆もなんかあったら相談しろよ。聞けることだったら聞くからさ」
普通なら下心があると思われるセリフだが、良樹は《《素》》だ。裏表のない率直な言葉。だから良樹は人に好かれる。
────けど、流石に元カレに今カレの相談はできないよね……。
流石の美帆も彼氏が秘書と浮気をしているかもしれない、なんて言えなかった。
受付勤務の時は制服を着ているから外には行きづらいし、こんな時しか外で食べれない。
「美帆?」
ロビーに降りたところで良樹と出会した。良樹は同僚と思しき男性達数名といた。
「お疲れ様。良樹もこれからお昼?」
「ああ。コンビニで買おうと思ってたんだけど……美帆は?」
「気分転換に外で食べようと思って」
すると、良樹は少し考えるような素振りを見せた。
「それ、俺も一緒に行ってもいいか?」
「え?」
「こっちに帰って来てからほとんど喋れてないだろ?」
「え? でも……」
良樹の横にいる同僚達は口々に言葉を発する。だが、良樹はそれらの言葉を全て「大学の後輩なんだ」で一掃した。
少し複雑だが、美帆も良樹とは喋りたいと思っていた。なにせ数年ぶりの再会だ。本来異性と食事するのは良くないが、ランチぐらいならいいだろう。
「分かった。じゃあ、行きましょ」
「俺この辺は分からないんだ。美帆のおすすめがあったら教えてくれ」
美帆もこの辺りで食事するのは割と久しぶりだった。以前好きだった店がまだあるだろうかと思いながら通りを探す。
その店はまだ存在していた。店の中に入ると、そこそこ人で埋まっていた。美帆は空いている席をなんとか探し、そこに座った。
「美帆と食事なんて何年ぶりだろうな」
「十年ぶりぐらい? なんか懐かしいね」
メニュー表を二人の間に置いて横に向ける。あれから何年も経ったのに昔と同じようなことをしてしまうのは体が覚えているからだろうか。
長くドイツで暮らしていたというのに良樹はちっとも変わらない。
「ドイツ生活が長いのに良樹はあんまり変わらないね」
「デュッセルドルフにいたんだ。日本人が多い街だから実はそれほどドイツ一色ってわけでもなかったんだよ」
「そうだったんだ……」
「でも、まさか美帆と会うなんてな。しかも藤宮に就職してるし、驚くことばかりだよ」
「本当にね。突然だからびっくりしちゃった」
サラダとドリンクが運ばれてきた。美帆がカトラリーケースからフォークを取り出そうとすると、代わりに良樹がそれを出して美帆に手渡した。
「実は、ちょっと気になってたんだ」
「なにが?」
「この間、美帆の彼氏と会っただろう?」
「……うん」
「誤解されたんじゃないかって気になってたんだ。まさか待ち合わせしてると思わなくて、きっと俺がナンパしてると思ったんだろう。悪いことをしたよ」
「えっと……気にしないで。たまたま間が悪かっただけだから」
良樹はずっと気にしてのだろう。こちらこそ悪いことをしたと、美帆の方が申し訳なく思った。
文也が気にしていたことは事実だ。だが、完全な勘違いだ。良樹はそんな人間ではない。今だってこうして気にしてくれていた。
「でも、ほっとしたよ。卒業と同時に美帆と別れて、美帆には悪いことをしたと思ってたから。美帆が幸せになってくれたならそれでいいんだ」
「気にしてたの?」
「そりゃあ俺だって気にするよ。ドイツに一緒に行こうなんて気軽に言えないし、美帆はやりたいことがあっただろう?」
「まぁ、そうだね……。良樹は? 彼女とか作らなかったの?」
「何人かとは付き合ったんだけど、俺は日本に帰るつもりだったから。話が合わなくて別れた子もいるし、国籍違うだけなのにうまくいかないんだよな。難しいよ」
「良樹ならきっといい子が見つかるって」
「美帆もなんかあったら相談しろよ。聞けることだったら聞くからさ」
普通なら下心があると思われるセリフだが、良樹は《《素》》だ。裏表のない率直な言葉。だから良樹は人に好かれる。
────けど、流石に元カレに今カレの相談はできないよね……。
流石の美帆も彼氏が秘書と浮気をしているかもしれない、なんて言えなかった。