とある企業の恋愛事情 -受付嬢と清掃員の場合-
第26話 「恋人」は終わり
「その節は申し訳ありませんでした!!」
受付に来るなり、古谷はカウンターにぶつかりそうな勢いで頭を下げた。
「まさかそんな誤解をされていたなんて……社長とはただの上司と部下の関係です! まったくもって好きになる要素はないのでご安心を!」
「お前な、隣に本人いてよくそんな明け透けに言えるんな」
「だって社長が説明不足だから誤解を招いたわけじゃないですか。嫌ですよ、浮気相手だなんて。私真面目で誠実な人がタイプなので」
「あのー……」
美帆は苦笑いを浮かべた。今日文也と古谷は仕事で来たのだが、どうやら文也は一連のことを古谷に言ったらしい。それでこうして古谷が謝ってきたというわけだ。
古谷は明るいし根が素直なのだろう。フランクな性格は若者がゆえ、だろうか。そういう相手だから文也もやり易いのかもしれない。
「せやから、美帆はこれ以上心配せんといてな。ほんまなんもない────あ」
文也の視線が美帆とは別の方向を向く。美帆もその視線を追った。その方向には良樹が歩いていた。
三人が同時に見つめていると、さすがの良樹も気が付いたのか、受付の方を向いた。良樹はそのまま受付に向かってきた。
「どうも。どうかしたんですか?」
良樹には文也の浮気騒動のことを伝えていたから、何かあったと思ったのだろう。
「あ、良樹。えっと……この間言ったことだけど、解決したから大丈夫」
「そうなのか? それなら良かったよ」
だが、やりとりを聞くなり文也が不貞腐れた視線を美帆に向ける。その目はまるで「……美帆、まさかコイツに相談してたんか」と言わんばかりだ。
だが流石にあの時のように喧嘩腰になることはなかった。文也もそこまで大人げなくはないようだ。
「あの、こちらの方は?」
古谷が良樹を見て尋ねた。
「ああ、彼はうちの営業です」
「瀬尾良樹と言います。よろしく」
「ど、どうも。津川フロンティアで秘書をしております古谷瑠美と言います」
どうやら良樹は古谷のタイプらしい。顔を見て真っ赤になっている。
今のところ良樹は彼女がいないらしいし、案外いいカップルになるかもしれないな、と美帆は思った。
「美帆、仕事終わった後会えへん?」
「え? はい。いいですよ」
「じゃ、仕事行ってくるわ」
文也と古谷がエレベーターの方へ向かい、受付には美帆と良樹が残された。
「とりあえず仲直りできたみたいでホッとしたよ」
「ごめんね。とばっちり受けさせて」
「いいや、構わないよ。美帆は彼と結婚するの?」
「えっ」
「付き合ってるんだろう?」
突然そんなことを聞かれたものだから驚いた。しかも元カレに。
結婚のことは特に考えていない。くるべきタイミングが来たら、ぐらいにしか思っていなかった。
文也ともそんな話になったことはないし、付き合ってまだ一年も経っていない。そういう話は付き合って数年経ってからするものではないだろうか。
だが、正直なところ数年も待っていたら今より年齢が増えてしまうし、急いだほうがいいことは分かる。
「どうかな……彼がどう考えてるか分からないから」
「二人ならうまくやっていけるんじゃないかな。彼は美帆のこと本当に好きみたいだし、仕事もちゃんとしてるみたいだし」
「……そうなったらいいだろうけど、私の一存じゃ、ね」
文也はまだ二十九歳だし、結婚するには早いのではないだろうか。だが、文也が歳をとるのを待っていたら自分の方も歳をとってしまう。
今更だが、結婚前提の付き合いでもないのにずるずる交際するのは時間の無駄だ。もし文也にそういう気がないのなら、別れた方が賢明だ。
受付に来るなり、古谷はカウンターにぶつかりそうな勢いで頭を下げた。
「まさかそんな誤解をされていたなんて……社長とはただの上司と部下の関係です! まったくもって好きになる要素はないのでご安心を!」
「お前な、隣に本人いてよくそんな明け透けに言えるんな」
「だって社長が説明不足だから誤解を招いたわけじゃないですか。嫌ですよ、浮気相手だなんて。私真面目で誠実な人がタイプなので」
「あのー……」
美帆は苦笑いを浮かべた。今日文也と古谷は仕事で来たのだが、どうやら文也は一連のことを古谷に言ったらしい。それでこうして古谷が謝ってきたというわけだ。
古谷は明るいし根が素直なのだろう。フランクな性格は若者がゆえ、だろうか。そういう相手だから文也もやり易いのかもしれない。
「せやから、美帆はこれ以上心配せんといてな。ほんまなんもない────あ」
文也の視線が美帆とは別の方向を向く。美帆もその視線を追った。その方向には良樹が歩いていた。
三人が同時に見つめていると、さすがの良樹も気が付いたのか、受付の方を向いた。良樹はそのまま受付に向かってきた。
「どうも。どうかしたんですか?」
良樹には文也の浮気騒動のことを伝えていたから、何かあったと思ったのだろう。
「あ、良樹。えっと……この間言ったことだけど、解決したから大丈夫」
「そうなのか? それなら良かったよ」
だが、やりとりを聞くなり文也が不貞腐れた視線を美帆に向ける。その目はまるで「……美帆、まさかコイツに相談してたんか」と言わんばかりだ。
だが流石にあの時のように喧嘩腰になることはなかった。文也もそこまで大人げなくはないようだ。
「あの、こちらの方は?」
古谷が良樹を見て尋ねた。
「ああ、彼はうちの営業です」
「瀬尾良樹と言います。よろしく」
「ど、どうも。津川フロンティアで秘書をしております古谷瑠美と言います」
どうやら良樹は古谷のタイプらしい。顔を見て真っ赤になっている。
今のところ良樹は彼女がいないらしいし、案外いいカップルになるかもしれないな、と美帆は思った。
「美帆、仕事終わった後会えへん?」
「え? はい。いいですよ」
「じゃ、仕事行ってくるわ」
文也と古谷がエレベーターの方へ向かい、受付には美帆と良樹が残された。
「とりあえず仲直りできたみたいでホッとしたよ」
「ごめんね。とばっちり受けさせて」
「いいや、構わないよ。美帆は彼と結婚するの?」
「えっ」
「付き合ってるんだろう?」
突然そんなことを聞かれたものだから驚いた。しかも元カレに。
結婚のことは特に考えていない。くるべきタイミングが来たら、ぐらいにしか思っていなかった。
文也ともそんな話になったことはないし、付き合ってまだ一年も経っていない。そういう話は付き合って数年経ってからするものではないだろうか。
だが、正直なところ数年も待っていたら今より年齢が増えてしまうし、急いだほうがいいことは分かる。
「どうかな……彼がどう考えてるか分からないから」
「二人ならうまくやっていけるんじゃないかな。彼は美帆のこと本当に好きみたいだし、仕事もちゃんとしてるみたいだし」
「……そうなったらいいだろうけど、私の一存じゃ、ね」
文也はまだ二十九歳だし、結婚するには早いのではないだろうか。だが、文也が歳をとるのを待っていたら自分の方も歳をとってしまう。
今更だが、結婚前提の付き合いでもないのにずるずる交際するのは時間の無駄だ。もし文也にそういう気がないのなら、別れた方が賢明だ。