とある企業の恋愛事情 -受付嬢と清掃員の場合-
文也が大阪に来たのは数ヶ月ぶりのことだった。
以前訪れたのは美帆と旅行に来た時だ。元カノとの旅先に見合い相手のカヲリと向かっているなんて奇妙なものだ。だが、文也はどうでもよかった。
新幹線の窓から外の景色を眺める。移り変わる田舎の景色を見ながら、窓に反射した隣の席のカヲリを見た。
カヲリも今回の対面には興味がないようだ。おそらく両親同士がただ喋って終わるだけだと思っているのだろう。当人同士は蚊帳の外で、主役でサブキャラだと分かっている。
楽しくもなんともない旅路だ。美帆と来た時はもっと違った。もっと話が盛り上がったし、話題が尽きなかった。行きたい場所をスマホで見ながら、顔がくっつきそうなほど近付いて、それに気が付いた美帆が恥ずかしがって遠ざかって────。そんなこともあった。
退屈な時間を終え、二人は指定されたホテルへ向かった。
ホテルの上階にあるレストランは会食にはぴったりだ。特別珍しくもなんともない。
レストランの受付に声を掛けると、支配人らしき男は笑顔でお辞儀した。
「お待ちしておりました。ご案内いたします」
案内された部屋は広々とした個室だった。創作レストランだからか、和洋どちらもをイメージした内装だ。窓からの眺望もいい。
しかし、すでに来ていた両親の顔を見ると気が滅入った。
「まあ、二人で来たのね」
文也の両親の反対側に座っていたカヲリの母親はにこやかに言うと立ち上がり、会釈した。愛想のいい人物のようだ。
「どうも、津川文也と申します」
「娘から色々話は聞いているよ。さあ、二人とも座るといい」
文也は自分の両親と目を合わせることもないまま横に座った。カヲリもだ。
「それにしても二人が仲良くやっていて驚いたわ。やっぱり近くに住んでいる方が安心できるわよねえ」文也の母、光子が言った。
「文也さんは東京で事業をしてらっしゃるそうですね。お若いのに素晴らしいわ」それにカヲリの母が続ける。
「いやいや、まだまだ世間知らずの息子ですから。至らないことも多い」
それに雅彦が言葉を被せた。相変わらず人を貶す達人だ。こんな席ですら息子を立てることをしないのだろうか。だが、今更だ。
カヲリの方を見た。慣れているのか。笑顔を浮かべながらうんうん頷いている。女性の方が社交的だからこんな煩わしいやりとりも簡単に割り切れるのだろう。
────これでよかったんかもな。
《《この五人》》は仲良くやっている。表面上は。そういう世界だからそれでいい。
この中に美帆がいたらどうしていただろうか。黙っていただろうか。それとも……怒っただろうか。
不思議だ。ここにいると心の中が静かなのに、美帆のことを思い出すと途端に気持ちがざわつく。「殺した」はずの心が動き出したような、そんな感覚を覚えた。
だが、すぐに否定した。美帆とは終わった。思い出すべきではない。彼女との思い出は自分を苦しめるだけだ。
以前訪れたのは美帆と旅行に来た時だ。元カノとの旅先に見合い相手のカヲリと向かっているなんて奇妙なものだ。だが、文也はどうでもよかった。
新幹線の窓から外の景色を眺める。移り変わる田舎の景色を見ながら、窓に反射した隣の席のカヲリを見た。
カヲリも今回の対面には興味がないようだ。おそらく両親同士がただ喋って終わるだけだと思っているのだろう。当人同士は蚊帳の外で、主役でサブキャラだと分かっている。
楽しくもなんともない旅路だ。美帆と来た時はもっと違った。もっと話が盛り上がったし、話題が尽きなかった。行きたい場所をスマホで見ながら、顔がくっつきそうなほど近付いて、それに気が付いた美帆が恥ずかしがって遠ざかって────。そんなこともあった。
退屈な時間を終え、二人は指定されたホテルへ向かった。
ホテルの上階にあるレストランは会食にはぴったりだ。特別珍しくもなんともない。
レストランの受付に声を掛けると、支配人らしき男は笑顔でお辞儀した。
「お待ちしておりました。ご案内いたします」
案内された部屋は広々とした個室だった。創作レストランだからか、和洋どちらもをイメージした内装だ。窓からの眺望もいい。
しかし、すでに来ていた両親の顔を見ると気が滅入った。
「まあ、二人で来たのね」
文也の両親の反対側に座っていたカヲリの母親はにこやかに言うと立ち上がり、会釈した。愛想のいい人物のようだ。
「どうも、津川文也と申します」
「娘から色々話は聞いているよ。さあ、二人とも座るといい」
文也は自分の両親と目を合わせることもないまま横に座った。カヲリもだ。
「それにしても二人が仲良くやっていて驚いたわ。やっぱり近くに住んでいる方が安心できるわよねえ」文也の母、光子が言った。
「文也さんは東京で事業をしてらっしゃるそうですね。お若いのに素晴らしいわ」それにカヲリの母が続ける。
「いやいや、まだまだ世間知らずの息子ですから。至らないことも多い」
それに雅彦が言葉を被せた。相変わらず人を貶す達人だ。こんな席ですら息子を立てることをしないのだろうか。だが、今更だ。
カヲリの方を見た。慣れているのか。笑顔を浮かべながらうんうん頷いている。女性の方が社交的だからこんな煩わしいやりとりも簡単に割り切れるのだろう。
────これでよかったんかもな。
《《この五人》》は仲良くやっている。表面上は。そういう世界だからそれでいい。
この中に美帆がいたらどうしていただろうか。黙っていただろうか。それとも……怒っただろうか。
不思議だ。ここにいると心の中が静かなのに、美帆のことを思い出すと途端に気持ちがざわつく。「殺した」はずの心が動き出したような、そんな感覚を覚えた。
だが、すぐに否定した。美帆とは終わった。思い出すべきではない。彼女との思い出は自分を苦しめるだけだ。