とある企業の恋愛事情 -受付嬢と清掃員の場合-
文也が清掃員として潜入してしばらく。仕事をしている時、女性社員達の雑談を耳にした。
「杉野さんってさぁ、絶対青葉秘書のこと狙ってるよねぇ」
「あー、分かる。なんかいつ見ても話しかけてるもん」
「職権濫用もいいとこだよね。受付嬢だかなんだか知らないけど、男に色目使いすぎ」
その話題の中心人物、受付嬢杉野美帆はどうやらあまり好ましくない人物のようだった。
大企業の受付嬢というポジション。目を引く美貌。まだ杉野と話していない文也も、なんとなく想像がついた。
津川雅彦の息子だと分かった途端目の色を変えてきた人間は大勢いる。社内の女性にしろそうでないにしろ、あまりの変貌ぶりに驚いて吐き気がしたほどだ。
大企業の受付嬢をわざわざ志望する理由なんて知れている。どうせ高収入高学歴の男を捕まえるつもりなのだろう。
文也は自然と杉野を軽蔑していた だが、同時に利用できるのではないかと思った。
文也のステータスは杉野にうってつけだ。もし杉野から情報が聞き出せればわざわざ潜入した甲斐があったというものだ。
それから文也は杉野を注意深く見るようになった。
杉野の仕事は受付嬢だから、ある程度決まった場所にいて監視しやすかった。一階総合受付と中階にある中受付。そのどちらかが杉野の主な仕事場だ。そこにいなければ社内を走り回っている。
仕事は来客の対応がほとんどだが、たまに秘書のようなこともやっているようだった。有能な受付嬢は秘書検定を受けていることが多い。津川商事の受付嬢も似たようなことをやっていたので、杉野も同じなのだろう。
そのため、杉野は役員や役職者達と過ごすことが多いようだった。
そしてある日。文也は終業後、杉野を尾行した。
杉野は男と待ち合わせをしていた。デートだと知っていたわけではない。何回も張り込んだうちの一回だった。
杉野と男は品のいい店で食事した後、人が寄り付かなさそうな雑居ビルの二階に入った。
文也は驚いた。その前に入った店がいい感じの店だったので、店を間違えているのかと思った。
誘ったのがどちらかは分からないが、どちらかの趣味であることは確かだ。それか、冒険しようと言ったのか。
追って店に入ると、店内はカジュアルな雰囲気だった。とても先ほどまで高い店で食事していた二人が入るような店には思えない。
二人はカウンターに座っていた。さりげなくその隣に座り、二人の会話に聞き耳を立てる。
会話を聞いた感じ、杉野に嫌な感じはしなかった。品がよく、話し上手で、話題が尽きない。程度に相手に会話を振り、適度に話を聞いている。受付嬢だから出来るのか、相当対人スキルが高いように思えた。
だが、男の方はぎこちない感じだ。男の方も話はできる方だが、なんとなく慣れていない感じがする。
しばらく会話を盗み聞いて、この店に連れてきたのは杉野の方だということが分かった。どうやら、杉野が普段来る店らしい。
────あんな品の良さそうな男連れて来る店ちゃうやろ。
その後ぎこちなさの正体が分かり、文也は内心小馬鹿にしていた。
杉野がどうしてこの店をセレクトしたかは分からないが、場違いだ。そもそも杉野も見た目からして店から浮いている。なんだったらさっきの店の方がよほど似合っていた。
杉野の魂胆がよく分からなかった。男の方は見る限り、そこそこいい企業に勤めていて、性格も良さそうで、ぱっと見優良物件だ。それならもっと静かで品のいい店に連れて行くべきだろう。
男が席を立った時を見計らい、文也は杉野に声を掛けてみることにした。
だが、仲良くなる目的ではない。あくまでもこの出会いはこれからの計画の序章だ。強く印象付けることが目的だった。
そのために敢えてマイナスな言葉を使った。杉野は怒ってはいなかった。ただ、突然話し掛けられて、妙なことを言われて驚いていた。当然の反応だ。
二人はその後すぐに席を立ってしまったが、杉野は必ず自分を思い出すだろう。その時こそ、この計画は本当に始まるのだ。
「杉野さんってさぁ、絶対青葉秘書のこと狙ってるよねぇ」
「あー、分かる。なんかいつ見ても話しかけてるもん」
「職権濫用もいいとこだよね。受付嬢だかなんだか知らないけど、男に色目使いすぎ」
その話題の中心人物、受付嬢杉野美帆はどうやらあまり好ましくない人物のようだった。
大企業の受付嬢というポジション。目を引く美貌。まだ杉野と話していない文也も、なんとなく想像がついた。
津川雅彦の息子だと分かった途端目の色を変えてきた人間は大勢いる。社内の女性にしろそうでないにしろ、あまりの変貌ぶりに驚いて吐き気がしたほどだ。
大企業の受付嬢をわざわざ志望する理由なんて知れている。どうせ高収入高学歴の男を捕まえるつもりなのだろう。
文也は自然と杉野を軽蔑していた だが、同時に利用できるのではないかと思った。
文也のステータスは杉野にうってつけだ。もし杉野から情報が聞き出せればわざわざ潜入した甲斐があったというものだ。
それから文也は杉野を注意深く見るようになった。
杉野の仕事は受付嬢だから、ある程度決まった場所にいて監視しやすかった。一階総合受付と中階にある中受付。そのどちらかが杉野の主な仕事場だ。そこにいなければ社内を走り回っている。
仕事は来客の対応がほとんどだが、たまに秘書のようなこともやっているようだった。有能な受付嬢は秘書検定を受けていることが多い。津川商事の受付嬢も似たようなことをやっていたので、杉野も同じなのだろう。
そのため、杉野は役員や役職者達と過ごすことが多いようだった。
そしてある日。文也は終業後、杉野を尾行した。
杉野は男と待ち合わせをしていた。デートだと知っていたわけではない。何回も張り込んだうちの一回だった。
杉野と男は品のいい店で食事した後、人が寄り付かなさそうな雑居ビルの二階に入った。
文也は驚いた。その前に入った店がいい感じの店だったので、店を間違えているのかと思った。
誘ったのがどちらかは分からないが、どちらかの趣味であることは確かだ。それか、冒険しようと言ったのか。
追って店に入ると、店内はカジュアルな雰囲気だった。とても先ほどまで高い店で食事していた二人が入るような店には思えない。
二人はカウンターに座っていた。さりげなくその隣に座り、二人の会話に聞き耳を立てる。
会話を聞いた感じ、杉野に嫌な感じはしなかった。品がよく、話し上手で、話題が尽きない。程度に相手に会話を振り、適度に話を聞いている。受付嬢だから出来るのか、相当対人スキルが高いように思えた。
だが、男の方はぎこちない感じだ。男の方も話はできる方だが、なんとなく慣れていない感じがする。
しばらく会話を盗み聞いて、この店に連れてきたのは杉野の方だということが分かった。どうやら、杉野が普段来る店らしい。
────あんな品の良さそうな男連れて来る店ちゃうやろ。
その後ぎこちなさの正体が分かり、文也は内心小馬鹿にしていた。
杉野がどうしてこの店をセレクトしたかは分からないが、場違いだ。そもそも杉野も見た目からして店から浮いている。なんだったらさっきの店の方がよほど似合っていた。
杉野の魂胆がよく分からなかった。男の方は見る限り、そこそこいい企業に勤めていて、性格も良さそうで、ぱっと見優良物件だ。それならもっと静かで品のいい店に連れて行くべきだろう。
男が席を立った時を見計らい、文也は杉野に声を掛けてみることにした。
だが、仲良くなる目的ではない。あくまでもこの出会いはこれからの計画の序章だ。強く印象付けることが目的だった。
そのために敢えてマイナスな言葉を使った。杉野は怒ってはいなかった。ただ、突然話し掛けられて、妙なことを言われて驚いていた。当然の反応だ。
二人はその後すぐに席を立ってしまったが、杉野は必ず自分を思い出すだろう。その時こそ、この計画は本当に始まるのだ。