とある企業の恋愛事情 -受付嬢と清掃員の場合-
文也は昼休憩はなるべく社員食堂で過ごすようにしていた。その方が社員たちの話を聞けるからだ。
それにここには杉野もよく来る。話しかけるチャンスだった。
十二時になると社員食堂は混み始める。文也はタイミングを見計らって社員食堂に向かった。
中はそこそこ人でいっぱいだ。辺りを見回し、目印の藤色の制服を見つけた。
杉野は一人で座っていた。仕事上、受付嬢がまとめて休憩することが難しいのだろう。杉野は一人で休憩することが多いようだった。
敢えて近くに行き、偶然杉野を見かけたような素振りをする。あとは簡単だ。
「お疲れ様です」
声を掛けると、杉野は顔を上げた。
「滝川さん。お疲れ様です」
「隣、いいですか?」
「ええ、どうぞ」
何なく隣の席をゲット出来た。あとはいつものように会話するだけだ。
「杉野さんはここで食べることが多いんですか?」
「はい。外に食べに行くとすぐに戻れないので。暇は時はいいんですけど、時間がないと休憩に行くタイミングも逃してしまったり、下手すると休憩自体とれないこともあるんです」
「大変ですね」
「なので社員食堂はありがたいんです。会社の中にありますし、何かあった時すぐに戻れますから」
根っからの仕事人間だ。いや、責任感があるからそうなのだろうか。
受付嬢なんて暇な仕事だと思っていたが、杉野はいつも忙しそうにしている。大企業の受付嬢だ、仕事の幅も広いのだろう。
つくづく、判断ミスをしたと思う。もっと杉野のことを知っていたら序盤であのようなミスはしなかった。
杉野はやはり自分のことをまだ怒っているだろうか。
「……そういえば、以前俺と似た顔の人がいるって言ってましたよね。その人って会社の人ですか?」
文也はさりげなく尋ねてみた。怒っていなければもう一度チャンスが巡ってくるかもしれない。手数が多い方が有利だ。
「あ……いえ、取引先の方なんです」
杉野はなんだか気まずそうにした。もしかしたら自分のことを思い出して不愉快な気分になっているのかもしれないな、と思った。
あれだけ失礼なことを言ったのだ。根に持っていても仕方ない。
「そうですか。俺も一度会ってみたいですね。自分と顔が似てる人なんてなかなかいませんから」
「そうですね……」
「どうかしましたか?」
「あ、いえ……。なんでもありません。あ、そうだ。滝川さんって毎日こちらにいらしているんですか?」
「いえ……決まった曜日だけです」
杉野はにっこり笑って話を逸らした。もうこの話はやめにしよう、ということだろう。
────当然やな。あんだけ酷いこと言ったんやから。
これはもう津川文也の話はしたくないということだろう。それなら敢えて聞かない方がいいかもしれない。
しかし皮肉なものだ。津川文也は嫌われているのに、明らかステータス不足の滝川文太の方が好感度が高いなんて。
勘違いさえしていなければ杉野とは仲良くなれたかもしれない。いや、まだ諦めてはいけない。失った信頼もどこかで取り戻せるチャンスがあるはずだ。とにかく杉野ともっと仲良くならなければ。
「杉野さんは、好きな食べ物とかありますか?」
「え、好きな食べ物ですか? うーん、なんでも好きなんですけど……甘いものとか、ラーメンが好きです」
「甘いものとラーメンですか(すげえ組み合わせ)」
「あ、別に一緒に食べるわけじゃないんです。ただ、よく食べてるなと思って」
「杉野さんがラーメン食べるって意外ですね」
「そう言われますけど、好きですよ。一番好きなのは醤油とあごだしラーメンですね。滝川さんはラーメン好きですか?」
「はい。よく食べてますよ」
「あ、じゃあよかったら今度食べに行きませんか? 美味しいお店知ってるんです」
ラーメン食べに行こうなんて、色気もへったくれもない。デート場所としては不適当だが、杉野は行きたそうにしているし文也もラーメンが嫌いではなかった。ここは杉野に免じて行くことにしよう。
「はい。じゃあ、仕事終わりにでも、是非」
「ありがとうございます。じゃあ、またお誘いしますね」
誘ってくれるということは、杉野は自分に対し少なからず好意があるということだ。
いや、ラーメンだからただの仕事仲間として、なのだろうか。
津川文也との態度の差が激しすぎてどっちか分からない。
それにここには杉野もよく来る。話しかけるチャンスだった。
十二時になると社員食堂は混み始める。文也はタイミングを見計らって社員食堂に向かった。
中はそこそこ人でいっぱいだ。辺りを見回し、目印の藤色の制服を見つけた。
杉野は一人で座っていた。仕事上、受付嬢がまとめて休憩することが難しいのだろう。杉野は一人で休憩することが多いようだった。
敢えて近くに行き、偶然杉野を見かけたような素振りをする。あとは簡単だ。
「お疲れ様です」
声を掛けると、杉野は顔を上げた。
「滝川さん。お疲れ様です」
「隣、いいですか?」
「ええ、どうぞ」
何なく隣の席をゲット出来た。あとはいつものように会話するだけだ。
「杉野さんはここで食べることが多いんですか?」
「はい。外に食べに行くとすぐに戻れないので。暇は時はいいんですけど、時間がないと休憩に行くタイミングも逃してしまったり、下手すると休憩自体とれないこともあるんです」
「大変ですね」
「なので社員食堂はありがたいんです。会社の中にありますし、何かあった時すぐに戻れますから」
根っからの仕事人間だ。いや、責任感があるからそうなのだろうか。
受付嬢なんて暇な仕事だと思っていたが、杉野はいつも忙しそうにしている。大企業の受付嬢だ、仕事の幅も広いのだろう。
つくづく、判断ミスをしたと思う。もっと杉野のことを知っていたら序盤であのようなミスはしなかった。
杉野はやはり自分のことをまだ怒っているだろうか。
「……そういえば、以前俺と似た顔の人がいるって言ってましたよね。その人って会社の人ですか?」
文也はさりげなく尋ねてみた。怒っていなければもう一度チャンスが巡ってくるかもしれない。手数が多い方が有利だ。
「あ……いえ、取引先の方なんです」
杉野はなんだか気まずそうにした。もしかしたら自分のことを思い出して不愉快な気分になっているのかもしれないな、と思った。
あれだけ失礼なことを言ったのだ。根に持っていても仕方ない。
「そうですか。俺も一度会ってみたいですね。自分と顔が似てる人なんてなかなかいませんから」
「そうですね……」
「どうかしましたか?」
「あ、いえ……。なんでもありません。あ、そうだ。滝川さんって毎日こちらにいらしているんですか?」
「いえ……決まった曜日だけです」
杉野はにっこり笑って話を逸らした。もうこの話はやめにしよう、ということだろう。
────当然やな。あんだけ酷いこと言ったんやから。
これはもう津川文也の話はしたくないということだろう。それなら敢えて聞かない方がいいかもしれない。
しかし皮肉なものだ。津川文也は嫌われているのに、明らかステータス不足の滝川文太の方が好感度が高いなんて。
勘違いさえしていなければ杉野とは仲良くなれたかもしれない。いや、まだ諦めてはいけない。失った信頼もどこかで取り戻せるチャンスがあるはずだ。とにかく杉野ともっと仲良くならなければ。
「杉野さんは、好きな食べ物とかありますか?」
「え、好きな食べ物ですか? うーん、なんでも好きなんですけど……甘いものとか、ラーメンが好きです」
「甘いものとラーメンですか(すげえ組み合わせ)」
「あ、別に一緒に食べるわけじゃないんです。ただ、よく食べてるなと思って」
「杉野さんがラーメン食べるって意外ですね」
「そう言われますけど、好きですよ。一番好きなのは醤油とあごだしラーメンですね。滝川さんはラーメン好きですか?」
「はい。よく食べてますよ」
「あ、じゃあよかったら今度食べに行きませんか? 美味しいお店知ってるんです」
ラーメン食べに行こうなんて、色気もへったくれもない。デート場所としては不適当だが、杉野は行きたそうにしているし文也もラーメンが嫌いではなかった。ここは杉野に免じて行くことにしよう。
「はい。じゃあ、仕事終わりにでも、是非」
「ありがとうございます。じゃあ、またお誘いしますね」
誘ってくれるということは、杉野は自分に対し少なからず好意があるということだ。
いや、ラーメンだからただの仕事仲間として、なのだろうか。
津川文也との態度の差が激しすぎてどっちか分からない。