とある企業の恋愛事情 -受付嬢と清掃員の場合-
その日、久しぶりに滝川の姿を見かけた。
もう一週間近く見ていなかったのではないだろうか。注意していたわけではないが、話すようになったせいかなんとなくそんなことまで敏感に感じ取ってしまう。
滝川の顔は遠くから見ても津川に見えた。やはりよく似ている。
それと同時にまた美帆の胸が変な音を立てた。また更年期障害だ。それか、心不全。そろそろ呼吸器科を受診すべきだろうか。それとも心療内科だろうか。
挨拶も出来ずもだもだとそんなことを考えていると、滝川の方が美帆に近付いてきた。
「おはようございます。杉野さん」
「お、はようございます」
────やっぱり津川さんに似てる。ううん、津川さんが滝川さんに似てるの?
滝川を見て変な気分になるのは津川の顔と似ているからなのだろうか。それとも津川が滝川に似ているからなのか。
「────杉野さん?」
「え?」
「大丈夫ですか? さっきから上の空ですけど」
「あ、ええ……いえ、大丈夫です。ちょっとぼうっとしていました」
「体調が悪いんですか」
「そんなんじゃありません。ドラマの見過ぎですね、きっと」
そのドラマのせいで津川を思い出したことも原因の一つだが。
ドラマのキャラクターのように単純な思考をしていればどれだけ良かっただろうか。津川の行動は理解不能だ。何を考えているかさっぱり分からない。
出会った時は小馬鹿にして見下していたのに、今はその真逆の態度を取る。もっといけすかないこ生意気な男だと思っていたのに、どこか少年っぽくて憎めない。どちらが本当の津川なのだろう。
津川はあの時のことを謝ったが、なぜそんな心境に至ったのか聞きたい。
庇ってくれたことは嬉しいが、「いやいや、あなたも同じこと言ってたじゃない」と腹を立ててもいる。
まさか沙織の言うように自分のことが好きになったのだろうか。そんなわけがない。津川は自分を馬鹿にしていたのだから。
やはりあのときめきは間違いだ。勘違いだ。津川を好きだなんて絶対にありえない。
「杉野さん、もし良かったら明日仕事の後どこか行きませんか」
「え、明日ですか?」
「気分転換に。どうです?」
それもいいかもしれない。このまま津川のことを考えていたって不毛だ。気分転換でもすればスッキリ忘れるだろう。
美帆は快く頷いた。
「はい。是非。どこに行きましょう?」
「行きたいところとかありますか」
「そうですね……。あ、もし良かったら、一緒に映画でも観に行きませんか」
「映画ですか。いいですね。そうしましょう」
自分は津川ではなく、滝川の方が気に入っていたはずだ。津川なんて好きではない。
このよく分からない感情はすぐに消えるだろう。そのはずだ。
もう一週間近く見ていなかったのではないだろうか。注意していたわけではないが、話すようになったせいかなんとなくそんなことまで敏感に感じ取ってしまう。
滝川の顔は遠くから見ても津川に見えた。やはりよく似ている。
それと同時にまた美帆の胸が変な音を立てた。また更年期障害だ。それか、心不全。そろそろ呼吸器科を受診すべきだろうか。それとも心療内科だろうか。
挨拶も出来ずもだもだとそんなことを考えていると、滝川の方が美帆に近付いてきた。
「おはようございます。杉野さん」
「お、はようございます」
────やっぱり津川さんに似てる。ううん、津川さんが滝川さんに似てるの?
滝川を見て変な気分になるのは津川の顔と似ているからなのだろうか。それとも津川が滝川に似ているからなのか。
「────杉野さん?」
「え?」
「大丈夫ですか? さっきから上の空ですけど」
「あ、ええ……いえ、大丈夫です。ちょっとぼうっとしていました」
「体調が悪いんですか」
「そんなんじゃありません。ドラマの見過ぎですね、きっと」
そのドラマのせいで津川を思い出したことも原因の一つだが。
ドラマのキャラクターのように単純な思考をしていればどれだけ良かっただろうか。津川の行動は理解不能だ。何を考えているかさっぱり分からない。
出会った時は小馬鹿にして見下していたのに、今はその真逆の態度を取る。もっといけすかないこ生意気な男だと思っていたのに、どこか少年っぽくて憎めない。どちらが本当の津川なのだろう。
津川はあの時のことを謝ったが、なぜそんな心境に至ったのか聞きたい。
庇ってくれたことは嬉しいが、「いやいや、あなたも同じこと言ってたじゃない」と腹を立ててもいる。
まさか沙織の言うように自分のことが好きになったのだろうか。そんなわけがない。津川は自分を馬鹿にしていたのだから。
やはりあのときめきは間違いだ。勘違いだ。津川を好きだなんて絶対にありえない。
「杉野さん、もし良かったら明日仕事の後どこか行きませんか」
「え、明日ですか?」
「気分転換に。どうです?」
それもいいかもしれない。このまま津川のことを考えていたって不毛だ。気分転換でもすればスッキリ忘れるだろう。
美帆は快く頷いた。
「はい。是非。どこに行きましょう?」
「行きたいところとかありますか」
「そうですね……。あ、もし良かったら、一緒に映画でも観に行きませんか」
「映画ですか。いいですね。そうしましょう」
自分は津川ではなく、滝川の方が気に入っていたはずだ。津川なんて好きではない。
このよく分からない感情はすぐに消えるだろう。そのはずだ。