とある企業の恋愛事情 -受付嬢と清掃員の場合-
 大阪は意外と近かった。新幹線を使えば二時間と少しで着く。

 新幹線の中も、意外と会話は弾んだ。もともとおしゃべりな二人だからそこは気にしなくとも良かったのかもしれない。

 新幹線が新大阪駅に着くと、JRに乗り換えた。ここからは数回乗り換えれば目的地に着く。

 土曜日だからか、テレビで見かける大きなゲートの付近は既に人だらけだった。早めに来たつもりだが、これは少し並ばなければならないかもしれない。

 ────そういえば、遊園地デートは破局しやすいっていうけど大丈夫なのかな。

 美帆はついいらない心配をしてしまった。

 だが、逆に言えばこれで見極めることができるだろう。ここで合わなければ付き合うなんて無理だ。

「津川さんはUSJ行ったことあるんですか?」

「ないな。大阪おる時はそれどころちゃうかったし。こんなところ遊びに来られへんかった」

「じゃあ、二人とも初ですね」

「杉野さんはこういうとこあんまり来おへんように見えるけど、好きなん?」

「大人になってからはあまり行かなくなっちゃいましたけど好きですよ」

「どんなんがいいん? ここ割と女の子苦手そうなん多いで」

「全然へっちゃらです。絶叫系とかも大好きですし、お化け屋敷みたいなのも────」

 美帆はハッとした。ついいつものように振る舞っていたが、これではいけない。絶叫系やホラー系アトラクションを笑顔でやり過ごす女なんて全く可愛げがない。せっかく可愛く振る舞おうとしたのに台無しだ。

「よかったわ。俺、下調べの時に色々見てんけどアレ、乗りたかってん」

 津川は入り口から見える長いジェットコースターを指さした。メインのアトラクションの一つだ。美帆も乗りたいと思っていた。

「いいですね。私も乗りたかったんです」

「じゃあ、最初アレ行くか? パスあるし、すぐ乗れるやろ」

「そうしましょう」

 ────あれ、津川さんは意外と普通なんだ。

 意外だった。今までは目を点にするか笑顔でいても心の中ではドン引きしてそうな男性がほとんどだったのに津川はそうではないらしい。

 色んなところを見られているし、彼が言っていたように「今更」なことなのだろう。

 自分がイキイキして見えたのはそういう些事を気にしなくて済むからかもしれない。
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