とある企業の恋愛事情 -受付嬢と清掃員の場合-
第17話 二人の嘘
しばらくして、青葉から育児休暇に入る連絡を貰った。
といっても、短時間勤務になったり週に何度か休むだけで本格的に休むわけではないらしい。そこは家族と相談しながら休むそうだ。
そういうわけで美帆も秘書課の仕事に専念することになった。
仕事は胡桃坂が主だったものをこなし、美帆がそれの補助をするといった感じた。
今まで教えてもらった通りのことをすればいいだけだが、臨機応変さが求められる仕事なのでなかなか気が抜けなかった。
「秘書課の仕事はどう? 慣れてきた?」
今日のスケジュールを伝え終えると、社長が言った。
「はい。おかげさまで慣れてきました」
「青葉がいないから不安なこともあると思うけど、困ったら言ってね」
「でも、真面目な青葉さんのことですから、仕事が出来ないと家で心配してるんじゃないでしょうか」
「大丈夫よ。むしろ喜んでるんじゃない? 奥さんとの時間が作れるわけだし、案外仕事のことなんて忘れてるかも」
社長はクスクスと笑った。
有難いことに周りのサポートがあるため困ったことにはなんとか対応出来ていた。
だが、別で気がかりなことが一つある。文也のことだ。
何度か一緒に食事に行ったりしたが、なんだか元気がない。一緒にいてもどこか上の空で、笑っていても形ばかりに見えた。
何か悩んでいるなら聞きたいと思うのに文也は話そうとしない。心配をかけまいとしているのか、笑顔で誤魔化すだけだ。
────私ってそんなに信頼できないのかな。ううん、きっと気を遣わせたくないと思って……。
男と女は違う。男は口下手なところがあるし、思っていても言えないこともあるかもしれない。仕事のことならプライドもあるだろう。
だが、見ているだけなんて無力だ。
今日の仕事はほぼ一日社長に同行した。
夕方過ぎに会社に戻ってくると、もうすぐ終業の時間だからか、会社の中がなんとなく落ち着いて見えた。外に出て仕事していなければ分からなかったかもしれない。
会社のロビーに入ると、受付にいた詩音が手を振ってくれた。美帆も軽く手を振り返した。
「受付のみんなは仲がいいのね」
そんな美帆達をみて社長は微笑んだ。
「そうですね……仲はいいと思います。まぁ、多少なりとも意見をぶつけ合うこともありますが……」
「受付けは客観的に見えることが多いから大変でしょう。色んな会社の人も来るし、気を使うことが多いでしょうから」
「そうですね。あ────」
美帆はふと思った。社長は津川商事のことを知っているだろうか。なにせ別の会社だから内部の情報まで分からない。社長同士なら会うこともあるかもしれない。
「どうしたの?」
「社長は、津川商事のこと、ご存知でしょうか」
「津川商事? ええ。もちろん。どうかしたの?」
「あ、いえ……取引で津川商事の社長の息子さんが会社にいらっしゃるんですけど、社長はご存知なのかなと」
「そうなの?」
「津川フロンティアという会社です。津川商事の子会社なんです」
星の数ほどある取引先のうちの一つだからいくら社長でも覚えていないかもしれない。
社長はやや間を置いてああ! と思い出したように言った。
「うちの通信機器を手配してくれてる会社ね。そう、あれが津川商事の社長の……」
「ご存知なんですか」
「そうね。津川商事の社長さんとは何度か会ったことがあるわ。かなりやり手の人ね」
あれだけ大きな会社の社長だから当然頭がキレるのだろう。
だが、文也は父親のことを嫌っているようだった。実際会ったことがないから分からないが、肉親同士の何かがあるのかもしれない。
────そうだ。滝川さんなら何か知ってないかな。一応親戚なんだし……。
美帆はふと、滝川を思い出した。滝川は文也の親戚だ。それなら文也の会社のことも知らないだろうか。
一応用事を頼めるぐらいの間柄なのだし、親戚なら会社のことぐらい知っているかもしれない。
といっても、短時間勤務になったり週に何度か休むだけで本格的に休むわけではないらしい。そこは家族と相談しながら休むそうだ。
そういうわけで美帆も秘書課の仕事に専念することになった。
仕事は胡桃坂が主だったものをこなし、美帆がそれの補助をするといった感じた。
今まで教えてもらった通りのことをすればいいだけだが、臨機応変さが求められる仕事なのでなかなか気が抜けなかった。
「秘書課の仕事はどう? 慣れてきた?」
今日のスケジュールを伝え終えると、社長が言った。
「はい。おかげさまで慣れてきました」
「青葉がいないから不安なこともあると思うけど、困ったら言ってね」
「でも、真面目な青葉さんのことですから、仕事が出来ないと家で心配してるんじゃないでしょうか」
「大丈夫よ。むしろ喜んでるんじゃない? 奥さんとの時間が作れるわけだし、案外仕事のことなんて忘れてるかも」
社長はクスクスと笑った。
有難いことに周りのサポートがあるため困ったことにはなんとか対応出来ていた。
だが、別で気がかりなことが一つある。文也のことだ。
何度か一緒に食事に行ったりしたが、なんだか元気がない。一緒にいてもどこか上の空で、笑っていても形ばかりに見えた。
何か悩んでいるなら聞きたいと思うのに文也は話そうとしない。心配をかけまいとしているのか、笑顔で誤魔化すだけだ。
────私ってそんなに信頼できないのかな。ううん、きっと気を遣わせたくないと思って……。
男と女は違う。男は口下手なところがあるし、思っていても言えないこともあるかもしれない。仕事のことならプライドもあるだろう。
だが、見ているだけなんて無力だ。
今日の仕事はほぼ一日社長に同行した。
夕方過ぎに会社に戻ってくると、もうすぐ終業の時間だからか、会社の中がなんとなく落ち着いて見えた。外に出て仕事していなければ分からなかったかもしれない。
会社のロビーに入ると、受付にいた詩音が手を振ってくれた。美帆も軽く手を振り返した。
「受付のみんなは仲がいいのね」
そんな美帆達をみて社長は微笑んだ。
「そうですね……仲はいいと思います。まぁ、多少なりとも意見をぶつけ合うこともありますが……」
「受付けは客観的に見えることが多いから大変でしょう。色んな会社の人も来るし、気を使うことが多いでしょうから」
「そうですね。あ────」
美帆はふと思った。社長は津川商事のことを知っているだろうか。なにせ別の会社だから内部の情報まで分からない。社長同士なら会うこともあるかもしれない。
「どうしたの?」
「社長は、津川商事のこと、ご存知でしょうか」
「津川商事? ええ。もちろん。どうかしたの?」
「あ、いえ……取引で津川商事の社長の息子さんが会社にいらっしゃるんですけど、社長はご存知なのかなと」
「そうなの?」
「津川フロンティアという会社です。津川商事の子会社なんです」
星の数ほどある取引先のうちの一つだからいくら社長でも覚えていないかもしれない。
社長はやや間を置いてああ! と思い出したように言った。
「うちの通信機器を手配してくれてる会社ね。そう、あれが津川商事の社長の……」
「ご存知なんですか」
「そうね。津川商事の社長さんとは何度か会ったことがあるわ。かなりやり手の人ね」
あれだけ大きな会社の社長だから当然頭がキレるのだろう。
だが、文也は父親のことを嫌っているようだった。実際会ったことがないから分からないが、肉親同士の何かがあるのかもしれない。
────そうだ。滝川さんなら何か知ってないかな。一応親戚なんだし……。
美帆はふと、滝川を思い出した。滝川は文也の親戚だ。それなら文也の会社のことも知らないだろうか。
一応用事を頼めるぐらいの間柄なのだし、親戚なら会社のことぐらい知っているかもしれない。