どうにもこうにも~出会い編~
 悶々とする日々はそんなに長くは続かなかった。

またしばらく西島さんの姿を見かけることがなかったからだ。もしかしたら私がシフトに入っていない日に来ていたのかもしれない。心の片隅には置きつつも、いつからか遠い昔話のような記憶になっていた。

しかし思わぬ時にその日は訪れるものである。

 いつものように店で接客をしていると、他の客と混じって暖簾をくぐって現れたのはその人だった。

「お久しぶりですね」

 注文を取りに行くと西島さんは私にそう言った。

「お、お久しぶりです」

 なんだかぎこちない挨拶になってしまった。彼はいつものようにお酒と2品ほどつまみを注文した。

「ああそうだ、石原さん」

 注文を取った後、西島さんはふと思い出したように私の名前を呼んだ。彼はスーツの内ポケットから取り出した名刺の裏に何やら書き込んで私にそれを差し出した。

「裏に私用の電話番号とメールアドレスを書いておきました。どちらにでもいいので、あとで都合の良い日を教えてください」

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