どうにもこうにも~出会い編~
 私は恐る恐る名刺を受け取るものの、事態が把握できず目をしばしばさせた。

「あの日の帰りのこと、覚えてますか?いいですよ、と私は言ったのですが、やはり聞こえていませんでしたか。あぁ、それとも気が変わってしまいましたか?」

「あ、ごご、ごめんなさい!あの時は聞こえてませんでした。西島さんがなんて言っていたのかずっと気がかりで…」

「これじゃあまるで私があなたをナンパしているみたいじゃないですか。最初に誘ったのは、あなたの方ですよ」

 私はカッと顔が熱くなるのを感じた。

「わ、私だってナンパのつもりで言ったんじゃないですっ」

「はは、わかってますよ。いつもひとり酒を愉しむ寂しい中年男がかわいそうになったんでしょう」

「西島さんのこと、そういうふうに思ってませんよ」

「そうですか。石原さんは優しいですね」

「でも、奥さんとか、大丈夫なんですか?」

「奥さんがいたら、居酒屋でひとり酒なんてしませんよ。悲しいですが、この年で私は独身なんです。誰も咎める人はいません」

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