どうにもこうにも~出会い編~
彼女のサラサラとした髪が自分の首元に触れてくすぐったい。シャンプーのよい香りがする。彼女は規則正しく寝息を立てている。

あどけなさが残る寝顔を見ながら、もし自分に娘がいたらと想像した。まわりの乗客は自分と彼女の関係をどういうふうに見るのだろう。友達にしても恋人にしても、自分にとって彼女は若すぎる。彼女の寝顔が微笑ましくもあり、俺を少し寂しくさせた。

「あ、しまった」

 俺は彼女の家を知らない。それどころか彼女の最寄り駅すら知らない。彼女を起こさなければ彼女の家に送り届けることができない。

「石原さん、あなたの家はどこですか?」

「んー」

「家はどこですか?」

「…わかんなぃ」

「最寄り駅はどこですか?」

「わかんにゃい」

「石原さんはどこで降りるんですか」

「んー」

「ローマの休日」のグレゴリー・ペックになった気分だ。

「石原さん」

 俺は彼女肩を軽く揺すったが、わずかに呻くだけで起きる様子はなかった。

俺は悩んだ挙句、彼女を俺のマンションに連れていくことにした。一人暮らしの男の家に年頃の女性を上げるべきではないのは分かっているが、致し方ない。

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