どうにもこうにも~出会い編~
 彼はサスペンス、SF、アクションなど、邦画、洋画を問わず幅広い年代でいろんなジャンルの映画を観るらしい。特にヒッチコックが好きなのだとか。ヒッチコックって名前は聞いたことあるけど、昔の有名なサスペンス映画監督というくらいしか知らない。私もいろんなジャンルの映画を観るけど、古い映画はあまり観ないかも。

「さて、そろそろ始まりますね」

場内が暗くなり、コマーシャルが流れ始めた。ほぼ満員の薄暗く広い映画館、迫力のある大きなスクリーンとサウンド。

久しぶりの映画に気分が高揚している。映画を観に行くときは大抵一人なので、誰かと一緒に行くのは新鮮だ。左隣に座っているのが男性ということもあって、なんだか気もそぞろ。

映画館の席ってなんでこんなに近いんだろう。映画が始まってからも、隣に座る彼の一挙一動が気になってしまう。足を組み替えたり、腕を組んだり、頬杖をついたり、ため息をついたり。妙に色気のある動作にドギマギしてしまう。

 きっと彼は隣にいる私のことなんて気にもかけずに映画に集中しているのだろうけど。映画の中盤に差し掛かると、私もストーリーにのめり込んでいった。


 いよいよストーリーはクライマックスへ。彼が恋人の美大生を病室で看取るシーンだ。すすり泣く音が場内のあちこちから聞こえてくる。例にもれず、私も鼻の奥がツンとして目頭が熱くなる。ちらりと隣を盗み見ると、彼の目がスクリーンの明かりで潤んでいることがわかった。いつも間にか、ふたりしてハンカチを片手にすすり泣いていた。

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