どうにもこうにも~出会い編~
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 いつの間にか西日が射す頃になっていた。俺たちはコーヒーショップを後にし、駅へと向かった。

「今日は付き合ってくれてありがとうございました。年甲斐もなく、デートをしているみたいで楽しかったです」

「デートみたい、ですか?」

「え?」

「いや、なんでもないです」

 彼女はふと目を伏せて、顔をくもらせた。

「ああ、すいません。ただ食事して映画を観ただけなのに、デートみたいだなんておこがましかったですね。こんな中年男と」

「そうじゃなくって」

 彼女は伏せていた目を上げて、強い口調でそう言ってから、言葉をつなげようとしているのか唇が震えていたが、すぐに口をきゅっと結んでしまった。

「おーケイちゃんじゃんか」

 後ろから若い男の声がした。後ろから声を掛けてきたのは見たことのある青年だった。右腕には包帯が巻かれ、顔の数か所には擦り傷があった。石原さんと親しげに話す姿に、どこかで見たことある青年だと思ったら、彼女と同じ居酒屋で働いている子だということに気づいた。どうやらバイクで事故を起こして怪我をしたらしい。

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