どうにもこうにも~出会い編~
 特に何を話すでもなく、ただ電車に揺られていた。互いに黙っているのに不思議と心地よい。

 「じゃあ、私ここで降りるので」

 「ああ、傘、持っていってください」

 「え、でもそれじゃあ西島さん濡れちゃう」

 「私は大丈夫ですので。女性を濡れて帰すわけにはいきませんから」

 彼は私に傘を手渡した。

 「あ、じゃあ、今度西島さんがお店に来たときに返しますね!」

 「ええ。ではおやすみなさい」

 「ありがとうございます。おやすみなさい!」
 
 微笑みながら軽く手を上げる西島さんに手を振る。西島さん、いい人だな…。
 


 それ以後、彼はしばらく店に来ることはなかった。


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