一思いに殺して
一思いに殺して
「可愛いな、って思ったの。一番初めに目についた時、そんでいざ喋ってみたら楽しいし、明るくてリアクションとかもよくってさ。笑いの沸点が同じ? っつーの。かと思ったらユニークで強がりでほっとけない、仕事は才能に長けてるし気が利いて周りをよく見てる。単なる根暗かと思ったけど実はただの人見知りでこっちに気があったとかそんなんうっかり知ったら普通モーションかけんじゃん、けどなんかこう、綺麗なものって破壊衝動芽生えるというか? 尽くしてくれるから余計何こいつ、って愛情の天秤がドカンと変な方向にひん曲がって思ってもないことを。どんな顔してくんのかなって真っ青になってくの、なんかちょっとクるもんがあったんよ、俺に恋して綺麗になって他の奴等に声かけられてんの癪じゃん、いやそれだれの手柄なんってな、だからまぁ、上ってくの見てたらなんか腹立ってきたし注目されんのも別部署で名前しんねー奴等がきっと美人とか仄めかしてくんのも全部ガチでうざくなった。可愛さ余って憎さ百倍、的な? 一度思うともう、むくむくとね。そっからはもう単調よ、顔見たら絞め殺したくなるし殴りたくなるし犯罪者予備軍はごめんだなって。そっから連絡取ってないし今はほっとしてるよ、加瀬さんと結婚したって聞いてウェディングドレスのあいつ見てはーよかったって思ったもん、安堵したね。あいつの幸せ? 違う違う、俺が犯罪者予備軍になんなくてよかったってそういうこと」
「檜山、お前それ十分に歪んでるよ」
「マ?」
「だから要するにお前の元カノ、岬さんへの想いは伝わったけど行方不明になった彼女の行き先はわからん。これで相違ない?」
深く頷く。
新調したスーツと腕時計を身に付けた自分をトイレの鏡で眺めると、同期の田野は納得したように肩に手を置いた。
元カノの天野 岬が失踪した。
行方不明になったとかで、会社を三日連続無断欠勤しており未だ連絡が付かないらしい。
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