目が覚めたら屈強な強面王子と入れ替わってしまいました ~お願い!筋トレは週一にして!~
6.じゅじゅちゅ!!ああ呪術!!
「マクシム様主催の舞踏会? が、五日後にあるのですか!?」
呪術を解く手がかりが掴めないまま、非情にも流れゆく日々の中で、私はセイラム様から告げられた催し事に目を剥きました。
差し出された招待状にはヴァルト様のお名前と、何故だかリシェル=ローレントの名も添えられています。キガフレールダケの療養中ということで、私が王宮にいることは伝わっているのでしょうが──。
「こ、これ、挑発ではありませんの? 出れるもんなら出てみろってことでしょうっ!?」
「ええ、そう考えていただいて構いません」
苦々しく、そして今にも血管が切れそうなお顔でセイラム様が頷かれました。不味いですわ、これ以上セイラム様に心労を掛けるわけにはいきませんのに。
ですがこれは意地の悪い挑発であると同時に、自らが黒幕であると主張しているようなものです。私とヴァルト様の体が入れ替わっていることを、第二王子殿下──マクシム様は既にご存じということですもの。
欠席すればヴァルト様が「呪術から脱せていない」と見なされ、出席したらしたで、第二王子派の者たちが執拗に声を掛けてくるに違いありませんわ。私たちにボロを出させるために!
「ど、どうしましょう。私、さすがに殿方のダンスなんて出来ませんわ」
それ以前に、貴族が大勢集まる会場でヴァルト様を演じ切る自信がありません。蒼鷲の騎士団の皆さまは勢いだけで誤魔化したようなものですし。
「……非常に腹立たしいですが、今回ばかりは時間がない。体調不良を理由に欠席すべきです」
「そんな……」
「会場で刺客を差し向けてくる可能性も高い。そうなれば狙われるのは……リシェル様のお体に入っている、ヴァルト様ですから」
セイラム様の重々しい言葉に、思わず背筋が冷たくなりました。
何の対策もせずに挑発に乗れば、そこで思わぬ惨劇を招くかもしれません。マクシム様本人にその気がなくとも、彼の配下がヴァルト様を亡き者にしようと動いても何らおかしくはないのです。
そのときになって私が間違いなく正しい対応が出来るかと問われると、胸を張って頷けるわけもなく。
「そうですわね……ヴァルト様をお守りするためなら、致し方ありませ──」
「やっだ、何でヴァルトの部屋にこんな可愛い子がいるわけ!? 聞いてないんだけど!」
突然、ヴァルト様のお部屋から甲高い声が聞こえてきました。
一体何事でしょう。可愛い子って、私の体のことでは?
困惑を露わにしながら私が動けずにいると、一足先にセイラム様が我に返りました。そして大股にヴァルト様のお部屋に向かい、扉を勢いよく開きます。
そこから見えたのは、二人の乙女が寝台の上で激しい取っ組み合いをしている光景でした。
「ちょ、ちょっとぉー!? 何をしていらっしゃるのヴァルト様!?」
「ローレント嬢!! この変態を俺から引き剥がせ!! お前の貞操の危機だ!!」
鬼気迫る表情で叫んだヴァルト様に従い、私は慌てて見知らぬ女性を羽交い絞めにしました。
彼女は鼻息荒く暴れ、なおもヴァルト様の方へ両手を伸ばします。
「きゃあー! 放しなさいヴァルト! あたしは今からこの毛並みのいい猫ちゃんを隈なく撫で回してべろべろに甘やかして愛でるのぉ!」
「こ、これは確かに変態ですわ! 私の体をどうこうしようなんて、例え同性でも御免ですわよ!」
ついつい本音をぶちまけながら、私はずるずると女性を寝室の外へと引き摺ったのでした。
「──え、ウケる! じゃあヴァルトの体に猫ちゃんの魂が入っちゃってるの? やだぁ、可哀想」
派手な赤い髪を掻き上げた女性は、きゃらきゃらと笑いながらソファに深く腰掛けました。ベルデナーレ王国ではあまり見慣れない、随分と露出の多い衣装は目の遣りどころに困ってしまいます。
「あ……? それならあたし、さっきヴァルトに迫ってたってこと?」
「そうだな」
「マジ勘弁~!」
「で、そろそろ本題に入ってもらいたいんだが。カルミネ」
彼女はカルミネ様と仰るのですね。小麦色の肌に金の装飾品がよく映える御方ですわ。
それにしてもヴァルト様、そんな執務室の隅っこに座らなくても。私の身を変態から遠ざけるためとはいえ、それでは声が聞こえません。
「ああ、そうそう、本題。もし時間が出来たら寄ってくれって、セイラムから言われたの思い出してさ。だからこうしてわざわざ来てやったの」
「……ああ、そういえば文を出したような気がしますね」
「セイラム様、記憶すらも代償にお仕事をしていたのですか……ですが何故カルミネ様を?」
お労しや、と哀れむのもほどほどに、私は彼女を呼び出した理由を尋ねました。どうやらお二人とも、カルミネ様とはお知り合いのようですが。
私が首を捻っていると、ソファの向かいに座ったカルミネ様は自ら疑問に答えてくださいました。
「あたしがドッザの呪術師だからさ。あんたらに掛けられた呪術を見て欲しい、ってね」
呪術を解く手がかりが掴めないまま、非情にも流れゆく日々の中で、私はセイラム様から告げられた催し事に目を剥きました。
差し出された招待状にはヴァルト様のお名前と、何故だかリシェル=ローレントの名も添えられています。キガフレールダケの療養中ということで、私が王宮にいることは伝わっているのでしょうが──。
「こ、これ、挑発ではありませんの? 出れるもんなら出てみろってことでしょうっ!?」
「ええ、そう考えていただいて構いません」
苦々しく、そして今にも血管が切れそうなお顔でセイラム様が頷かれました。不味いですわ、これ以上セイラム様に心労を掛けるわけにはいきませんのに。
ですがこれは意地の悪い挑発であると同時に、自らが黒幕であると主張しているようなものです。私とヴァルト様の体が入れ替わっていることを、第二王子殿下──マクシム様は既にご存じということですもの。
欠席すればヴァルト様が「呪術から脱せていない」と見なされ、出席したらしたで、第二王子派の者たちが執拗に声を掛けてくるに違いありませんわ。私たちにボロを出させるために!
「ど、どうしましょう。私、さすがに殿方のダンスなんて出来ませんわ」
それ以前に、貴族が大勢集まる会場でヴァルト様を演じ切る自信がありません。蒼鷲の騎士団の皆さまは勢いだけで誤魔化したようなものですし。
「……非常に腹立たしいですが、今回ばかりは時間がない。体調不良を理由に欠席すべきです」
「そんな……」
「会場で刺客を差し向けてくる可能性も高い。そうなれば狙われるのは……リシェル様のお体に入っている、ヴァルト様ですから」
セイラム様の重々しい言葉に、思わず背筋が冷たくなりました。
何の対策もせずに挑発に乗れば、そこで思わぬ惨劇を招くかもしれません。マクシム様本人にその気がなくとも、彼の配下がヴァルト様を亡き者にしようと動いても何らおかしくはないのです。
そのときになって私が間違いなく正しい対応が出来るかと問われると、胸を張って頷けるわけもなく。
「そうですわね……ヴァルト様をお守りするためなら、致し方ありませ──」
「やっだ、何でヴァルトの部屋にこんな可愛い子がいるわけ!? 聞いてないんだけど!」
突然、ヴァルト様のお部屋から甲高い声が聞こえてきました。
一体何事でしょう。可愛い子って、私の体のことでは?
困惑を露わにしながら私が動けずにいると、一足先にセイラム様が我に返りました。そして大股にヴァルト様のお部屋に向かい、扉を勢いよく開きます。
そこから見えたのは、二人の乙女が寝台の上で激しい取っ組み合いをしている光景でした。
「ちょ、ちょっとぉー!? 何をしていらっしゃるのヴァルト様!?」
「ローレント嬢!! この変態を俺から引き剥がせ!! お前の貞操の危機だ!!」
鬼気迫る表情で叫んだヴァルト様に従い、私は慌てて見知らぬ女性を羽交い絞めにしました。
彼女は鼻息荒く暴れ、なおもヴァルト様の方へ両手を伸ばします。
「きゃあー! 放しなさいヴァルト! あたしは今からこの毛並みのいい猫ちゃんを隈なく撫で回してべろべろに甘やかして愛でるのぉ!」
「こ、これは確かに変態ですわ! 私の体をどうこうしようなんて、例え同性でも御免ですわよ!」
ついつい本音をぶちまけながら、私はずるずると女性を寝室の外へと引き摺ったのでした。
「──え、ウケる! じゃあヴァルトの体に猫ちゃんの魂が入っちゃってるの? やだぁ、可哀想」
派手な赤い髪を掻き上げた女性は、きゃらきゃらと笑いながらソファに深く腰掛けました。ベルデナーレ王国ではあまり見慣れない、随分と露出の多い衣装は目の遣りどころに困ってしまいます。
「あ……? それならあたし、さっきヴァルトに迫ってたってこと?」
「そうだな」
「マジ勘弁~!」
「で、そろそろ本題に入ってもらいたいんだが。カルミネ」
彼女はカルミネ様と仰るのですね。小麦色の肌に金の装飾品がよく映える御方ですわ。
それにしてもヴァルト様、そんな執務室の隅っこに座らなくても。私の身を変態から遠ざけるためとはいえ、それでは声が聞こえません。
「ああ、そうそう、本題。もし時間が出来たら寄ってくれって、セイラムから言われたの思い出してさ。だからこうしてわざわざ来てやったの」
「……ああ、そういえば文を出したような気がしますね」
「セイラム様、記憶すらも代償にお仕事をしていたのですか……ですが何故カルミネ様を?」
お労しや、と哀れむのもほどほどに、私は彼女を呼び出した理由を尋ねました。どうやらお二人とも、カルミネ様とはお知り合いのようですが。
私が首を捻っていると、ソファの向かいに座ったカルミネ様は自ら疑問に答えてくださいました。
「あたしがドッザの呪術師だからさ。あんたらに掛けられた呪術を見て欲しい、ってね」