とある企業の恋愛事情 -ある社長秘書とコンビニ店員の場合-
日中、綾芽はぼんやり寝転んで過ごした。
とてもいつものように働ける気力がない。ただ単に疲れているだけなのだろうか。それなら眠れば回復しそうだが、眠ろうと思ってもなかなか寝付けなかった。
一日中壁と天井を見ているだけなのに、不思議と空腹になった。食事は朝のおじやが残っているらしい。冷蔵庫の中にもいろいろあるから勝手に使ってもいいと言っていた。
だが、さすがに人様の家の冷蔵庫を勝手に物色するわけにもいかないだろう。
綾芽はキッチンに向かい、蓋がしてある鍋を開けた。おじやは茶碗二杯分ほど余っていた。おかわりすると思ってたくさん作っていたのだろう。
キッチンはIHで使い方がよく分からないが、電源と書かれたボタンがあったので押してみた。ただ、機械はピッと音を立てただけで鍋に火が通っているわけではなさそうだ。
綾芽の家はガスコンロだ。IHなんておしゃれなものではない。どうしたものかと迷っていると、天板に赤い矢印が灯っていた。恐らくこれを押せという指示なのだろう。そこ以外は押しても反応がなかった。綾芽がそこを押すと、ようやくIHが音を立て始めた。よく分からないが、これで温められるはずだ。
IHのおかげなのか俊介が使っている鍋がいいのか、火はすぐに通った。おたまを探し、キッチンの下の収納の中からそれを見つけた。茶碗は昨日使ったものが水切りに干してあったのでそれをそのまま取った。
味付けはある程度しているようだ。ほんのり出汁の香りが漂ってきた。俊介はおじやを作るのもうまい。なにを作らせてもうまいのではないだろうか。
キッチンに食事を運んだところでふと綾芽のスマホが鳴った。電話のようだ。綾芽は慌ててベッドに置いたスマホを探した。
スマホは枕元にあった。着信は俊介からだった。
「はい……綾芽です」
『寝てたらごめん。ちょっと気になったんだ』
「いえ、起きていました」
『もししんどかったら家に戻って食事を届けるけど────』
「あ、いえ。大丈夫です。おじやを温めて食べようと思っていました」
『そうか……無理せずにな。夜は早めに帰るから、待っててくれ』
ぞっこんだな、と俊介の後ろで声がした。続いてうるさいな、黙ってろよ! と俊介が電話の向こうで喚く。恐らく、一緒にいるのは本堂なのだろう。
『悪い。茶々が入った。とにかく、ゆっくり休んでてくれ。じゃあ、俺も休憩に行ってくる』
「はい……」
通話が切れて、綾芽はスマホを持ったままダイニングに戻った。テーブルに着き、温めたおじやに口を付ける。俊介のおじやは美味しいが、やはりあまり食欲が沸かない。おじやだからではない。空腹なはずなのに、食べる気分になれないのだ。
結局、綾芽は半分ほど口を付けてレンゲを置いた。残すのは忍びないのでもう少ししてからまた温めて食べることにした。
またベッドに戻り、ゴロンと横になる。普段の生活を考えれば、なんて怠惰な一日だろう。今日仕事に出ていれば一体いくら稼げただろうか。
働かなければならない。けれど体が動かない。いや、単に怠けているだけではないだろうか。本当なら多少無理をしてでも仕事に行くべきだったのだ。この繁忙期に仕事を休むなんてどうかしている。
考えれば考えるほど頭が重くなって、知恵熱が出た時のように頭がぼやんとした。
とてもいつものように働ける気力がない。ただ単に疲れているだけなのだろうか。それなら眠れば回復しそうだが、眠ろうと思ってもなかなか寝付けなかった。
一日中壁と天井を見ているだけなのに、不思議と空腹になった。食事は朝のおじやが残っているらしい。冷蔵庫の中にもいろいろあるから勝手に使ってもいいと言っていた。
だが、さすがに人様の家の冷蔵庫を勝手に物色するわけにもいかないだろう。
綾芽はキッチンに向かい、蓋がしてある鍋を開けた。おじやは茶碗二杯分ほど余っていた。おかわりすると思ってたくさん作っていたのだろう。
キッチンはIHで使い方がよく分からないが、電源と書かれたボタンがあったので押してみた。ただ、機械はピッと音を立てただけで鍋に火が通っているわけではなさそうだ。
綾芽の家はガスコンロだ。IHなんておしゃれなものではない。どうしたものかと迷っていると、天板に赤い矢印が灯っていた。恐らくこれを押せという指示なのだろう。そこ以外は押しても反応がなかった。綾芽がそこを押すと、ようやくIHが音を立て始めた。よく分からないが、これで温められるはずだ。
IHのおかげなのか俊介が使っている鍋がいいのか、火はすぐに通った。おたまを探し、キッチンの下の収納の中からそれを見つけた。茶碗は昨日使ったものが水切りに干してあったのでそれをそのまま取った。
味付けはある程度しているようだ。ほんのり出汁の香りが漂ってきた。俊介はおじやを作るのもうまい。なにを作らせてもうまいのではないだろうか。
キッチンに食事を運んだところでふと綾芽のスマホが鳴った。電話のようだ。綾芽は慌ててベッドに置いたスマホを探した。
スマホは枕元にあった。着信は俊介からだった。
「はい……綾芽です」
『寝てたらごめん。ちょっと気になったんだ』
「いえ、起きていました」
『もししんどかったら家に戻って食事を届けるけど────』
「あ、いえ。大丈夫です。おじやを温めて食べようと思っていました」
『そうか……無理せずにな。夜は早めに帰るから、待っててくれ』
ぞっこんだな、と俊介の後ろで声がした。続いてうるさいな、黙ってろよ! と俊介が電話の向こうで喚く。恐らく、一緒にいるのは本堂なのだろう。
『悪い。茶々が入った。とにかく、ゆっくり休んでてくれ。じゃあ、俺も休憩に行ってくる』
「はい……」
通話が切れて、綾芽はスマホを持ったままダイニングに戻った。テーブルに着き、温めたおじやに口を付ける。俊介のおじやは美味しいが、やはりあまり食欲が沸かない。おじやだからではない。空腹なはずなのに、食べる気分になれないのだ。
結局、綾芽は半分ほど口を付けてレンゲを置いた。残すのは忍びないのでもう少ししてからまた温めて食べることにした。
またベッドに戻り、ゴロンと横になる。普段の生活を考えれば、なんて怠惰な一日だろう。今日仕事に出ていれば一体いくら稼げただろうか。
働かなければならない。けれど体が動かない。いや、単に怠けているだけではないだろうか。本当なら多少無理をしてでも仕事に行くべきだったのだ。この繁忙期に仕事を休むなんてどうかしている。
考えれば考えるほど頭が重くなって、知恵熱が出た時のように頭がぼやんとした。