とある企業の恋愛事情 -ある社長秘書とコンビニ店員の場合-
翌日、綾芽は目を覚ましてすぐにまた体が重いと感じた。昨日の夜もあまり眠れなかったからそのせいだろうか。やはり頭がスッキリしない。
「綾芽さん、おはよう」
俊介は上半身を起こし、綾芽の額に手を当てた。
「熱はなさそうだな……朝ごはんは食べれそうか?」
昨日は夕食を食べなかったからお腹は空いていた。だが、食欲はない。空腹さえ満たせるなら、まともな食事でなくてもなんでもいいように思えた。どうせ美味しいと感じないのだから。
────私、一体どうしたんだろう。
綾芽はようやく違和感を抱いた。空き巣のことは確かにショックだったが、ここまで落ち込むことではない。何も盗られなかったのだからそれでいいはずだ。
なのにいつまでも気分は落ち込んだままで、体はこんな調子だ。本当にどこか悪いのではないだろうか。
本当は病院には行きたくなかった。大きな怪我や苦痛がない限り行かないようにしていたが、いつまでもこうして俊介に迷惑をかけるわけにはいかないだろう。
八時前、俊介は仕事に向かった。綾芽はスマホで近くの病院を検索し、数件見つけたうちの一つを受診することにした。
簡単に身支度を整え、マンションを出た。このマンションに来てから、出かけるのは初めてだ。たった数日ぶりのことなのに、随分久しぶりに外に出た気がした。
向かったのは、俊介が住むマンションの近くにある大きな病院だ。初めていく病院なので初診料が高いだろうが、背に腹は変えられない。
綾芽は内科を受診することにした。とりあえず、そこしか思いつかなかったからだ。
病院には開院の少し前に来たが、綾芽より早く来ていた年配の患者が何人かいて、少し待たされることになった。ようやく順番が回ってきて、受診表を受け取って内科の待合まで向かった。
三十分ほど待った頃、ようやく中待合に通された。そこで血圧を測って少しして、名前を呼ばれた。
診察室はいくつかあったが、綾芽が当たったのは四十代ほどに見える女医だった。ぱっと見、穏やかそうな優しそうな女性だ。綾芽は少しばかり安心した。
「では、立花さん。今日は体が怠いと言うことですけれど────」
椅子に腰掛けると、女医は早速質問してきた。綾芽は問診票に書き込んだのと同じようなことを説明した。
「普段からこういうことは起こりますか?」
「いえ……初めてです」
「本当に異常があった時は精密検査を受けなければ分かりません。でも、あなたの場合怪我や病気ではないように思いますね」
「どういうことですか……?」
「問診票に書いてある、立花さんのお仕事の時間と睡眠時間ですけれど、普通の人よりかなり少ないと思います。過労ということも考えられます」
「過労?」
綾芽は思わず聞き返した。過労など、今まで一度もなったことがない。確かに過労と言われてもおかしくないぐらいには働いているが、こんなふうに唐突になるものなのだろうか。
「睡眠をちゃんと摂らなかったり、体に負荷がかかる生活を送っていると自律神経が働かなくなってしまうんです。あなたの症状はそれとよく似ています。詳しいことはこちらでは判断できないので、このあと心療内科を受診してください」
「え────」
まさかそんなことを言われるとは思っても見ず、綾芽は唖然とした。
診察は終わってしまい呆然と部屋の外に出されたが、頭がついていかなかった。
だが、受付で看護婦に「こちらを持って心療内科に行ってください」、と言われてようやく本当のことだったのだと気が付いた。
「綾芽さん、おはよう」
俊介は上半身を起こし、綾芽の額に手を当てた。
「熱はなさそうだな……朝ごはんは食べれそうか?」
昨日は夕食を食べなかったからお腹は空いていた。だが、食欲はない。空腹さえ満たせるなら、まともな食事でなくてもなんでもいいように思えた。どうせ美味しいと感じないのだから。
────私、一体どうしたんだろう。
綾芽はようやく違和感を抱いた。空き巣のことは確かにショックだったが、ここまで落ち込むことではない。何も盗られなかったのだからそれでいいはずだ。
なのにいつまでも気分は落ち込んだままで、体はこんな調子だ。本当にどこか悪いのではないだろうか。
本当は病院には行きたくなかった。大きな怪我や苦痛がない限り行かないようにしていたが、いつまでもこうして俊介に迷惑をかけるわけにはいかないだろう。
八時前、俊介は仕事に向かった。綾芽はスマホで近くの病院を検索し、数件見つけたうちの一つを受診することにした。
簡単に身支度を整え、マンションを出た。このマンションに来てから、出かけるのは初めてだ。たった数日ぶりのことなのに、随分久しぶりに外に出た気がした。
向かったのは、俊介が住むマンションの近くにある大きな病院だ。初めていく病院なので初診料が高いだろうが、背に腹は変えられない。
綾芽は内科を受診することにした。とりあえず、そこしか思いつかなかったからだ。
病院には開院の少し前に来たが、綾芽より早く来ていた年配の患者が何人かいて、少し待たされることになった。ようやく順番が回ってきて、受診表を受け取って内科の待合まで向かった。
三十分ほど待った頃、ようやく中待合に通された。そこで血圧を測って少しして、名前を呼ばれた。
診察室はいくつかあったが、綾芽が当たったのは四十代ほどに見える女医だった。ぱっと見、穏やかそうな優しそうな女性だ。綾芽は少しばかり安心した。
「では、立花さん。今日は体が怠いと言うことですけれど────」
椅子に腰掛けると、女医は早速質問してきた。綾芽は問診票に書き込んだのと同じようなことを説明した。
「普段からこういうことは起こりますか?」
「いえ……初めてです」
「本当に異常があった時は精密検査を受けなければ分かりません。でも、あなたの場合怪我や病気ではないように思いますね」
「どういうことですか……?」
「問診票に書いてある、立花さんのお仕事の時間と睡眠時間ですけれど、普通の人よりかなり少ないと思います。過労ということも考えられます」
「過労?」
綾芽は思わず聞き返した。過労など、今まで一度もなったことがない。確かに過労と言われてもおかしくないぐらいには働いているが、こんなふうに唐突になるものなのだろうか。
「睡眠をちゃんと摂らなかったり、体に負荷がかかる生活を送っていると自律神経が働かなくなってしまうんです。あなたの症状はそれとよく似ています。詳しいことはこちらでは判断できないので、このあと心療内科を受診してください」
「え────」
まさかそんなことを言われるとは思っても見ず、綾芽は唖然とした。
診察は終わってしまい呆然と部屋の外に出されたが、頭がついていかなかった。
だが、受付で看護婦に「こちらを持って心療内科に行ってください」、と言われてようやく本当のことだったのだと気が付いた。