とある企業の恋愛事情 -ある社長秘書とコンビニ店員の場合-
第25話 花は枯れる日がくる
コール音はしばらく鳴り続けたが、綾芽が出ることはなかった。俊介は溜息をついて、通話を切った。
家に残して来た綾芽が心配だ。食事は用意して来たが、綾芽はちゃんと食べているだろうか。昨日の夜からあまり食が進まないのか食事を用意してもほとんど食べようとしない。余程空き巣のことがショックだったのだろう。あれから表情も暗いし、笑わなくなった。
「俊介、綾芽ちゃんは大丈夫?」
俊介はハッと我に帰った。今は聖と本堂と執務室で昼ごはんを食べている最中だった。また、綾芽のことを考えてぼうっとしていたらしい。
「ああ……多分寝てるんだと思う」
「そう……心配ね。空き巣だなんて、ショックを受けて当然よ。女の子だもの」
「いっそこの際同棲したらどうだ?」
「俺だって誘ったさ。けど、断られた」
「綾芽ちゃんのことだから、俊介が気を遣って言ってると思ったんでしょうね」
「分かってる。けど……綾芽さんの様子がなんだかおかしいんだ」
「おかしい?」
聞き返したのは本堂だ。
俊介はここ数日の綾芽を思い出した。綾芽は毎日のように働いていた。元気で、キビキビとよく動く女性だった。だが、最近の彼女はどうにもぼんやりしていていつも意識がここにないように思う。黙ることも増えた。いつもしんどそうで、顔色が悪い。
以前の綾芽とは真逆になって正直自分も戸惑っている。だが、早く元気になってほしい──そう思って行動すればするほど、綾芽は元気をなくしていくように見えた。
俊介がここ最近の綾芽の様子を話すと、聖と本堂は暗い表情で顔を見合わせた。
「俊介……悩む気持ちは分かるけど、悩み過ぎても仕方ないわ」
「そうだが……」
「綾芽ちゃんはもともと責任感が強い子でしょう。きっと空き巣のことでショックを受けた上に、俊介に迷惑をかけると思って気を使ってるのかもしれないわ」
「……そうか」
「お前まで考え過ぎたら相方は余計にしんどくなるんだ。余計な気ぃ使わせねえように普通に振る舞ってりゃいい」
「普通にしろって言ったってな。俺だって彼女に元気になってほしいって思ってるんだ。なのに食事も食べてくれないし眠れないのか何度も夜中に起きてるみたいで……心配なんだよ」
「俊介の気持ちは分かるわ。でもね、普段たくさん頑張ってる人に、元気になれ、無理をするなって口で言ってもなかなか難しいものよ。本人だって、きっと何よりそう思ってると思う」
「じゃあ、俺は何もしないほうがいいのか……?」
「ただそばにいてあげたらいいのよ。それだけでも全然違うと思うから」
綾芽は元々甘えることがかなり苦手だ。それも最近は慣れてきたように思うが、こんな状況で、自分があれこれと世話を焼いたら辛いだけかもしれない。
しかし、大事な人が苦しんでいるのに何もせずに見ているだけというのは辛いものだ。何もできないから気を紛らわすこともできない。
────甘かったな。俺は……。
同棲すれば少しは綾芽も元気になるかもしれないと思っていた。彼女の負担が少しでも減れば元気になると思った。だが、それは彼女にとって負担がさらに増えることなのだ。
「俊介……綾芽ちゃん、もし結婚式に来れなさそうなら、無理しなくてもいいわ。お祝いなんているでも出来るし、また会えるから」
「悪い……彼女には俺から伝えておく」
「気にしないでねって伝えておいて。きっとまた落ち込んじゃうと思うから」
聖の結婚式はもう数日後に迫っている。このままだと、本当に綾芽は出席出来なくなるだろう。彼女はきっと行きたいに違いない。だが、それで無理をしてまた綾芽の負担になったら────。
励まされたはずなのに俊介は落ち込んだままだった。せっかくのクリスマスも、このままではとても祝える雰囲気ではない。自分は見ているだけしか出来ないのだ。
家に残して来た綾芽が心配だ。食事は用意して来たが、綾芽はちゃんと食べているだろうか。昨日の夜からあまり食が進まないのか食事を用意してもほとんど食べようとしない。余程空き巣のことがショックだったのだろう。あれから表情も暗いし、笑わなくなった。
「俊介、綾芽ちゃんは大丈夫?」
俊介はハッと我に帰った。今は聖と本堂と執務室で昼ごはんを食べている最中だった。また、綾芽のことを考えてぼうっとしていたらしい。
「ああ……多分寝てるんだと思う」
「そう……心配ね。空き巣だなんて、ショックを受けて当然よ。女の子だもの」
「いっそこの際同棲したらどうだ?」
「俺だって誘ったさ。けど、断られた」
「綾芽ちゃんのことだから、俊介が気を遣って言ってると思ったんでしょうね」
「分かってる。けど……綾芽さんの様子がなんだかおかしいんだ」
「おかしい?」
聞き返したのは本堂だ。
俊介はここ数日の綾芽を思い出した。綾芽は毎日のように働いていた。元気で、キビキビとよく動く女性だった。だが、最近の彼女はどうにもぼんやりしていていつも意識がここにないように思う。黙ることも増えた。いつもしんどそうで、顔色が悪い。
以前の綾芽とは真逆になって正直自分も戸惑っている。だが、早く元気になってほしい──そう思って行動すればするほど、綾芽は元気をなくしていくように見えた。
俊介がここ最近の綾芽の様子を話すと、聖と本堂は暗い表情で顔を見合わせた。
「俊介……悩む気持ちは分かるけど、悩み過ぎても仕方ないわ」
「そうだが……」
「綾芽ちゃんはもともと責任感が強い子でしょう。きっと空き巣のことでショックを受けた上に、俊介に迷惑をかけると思って気を使ってるのかもしれないわ」
「……そうか」
「お前まで考え過ぎたら相方は余計にしんどくなるんだ。余計な気ぃ使わせねえように普通に振る舞ってりゃいい」
「普通にしろって言ったってな。俺だって彼女に元気になってほしいって思ってるんだ。なのに食事も食べてくれないし眠れないのか何度も夜中に起きてるみたいで……心配なんだよ」
「俊介の気持ちは分かるわ。でもね、普段たくさん頑張ってる人に、元気になれ、無理をするなって口で言ってもなかなか難しいものよ。本人だって、きっと何よりそう思ってると思う」
「じゃあ、俺は何もしないほうがいいのか……?」
「ただそばにいてあげたらいいのよ。それだけでも全然違うと思うから」
綾芽は元々甘えることがかなり苦手だ。それも最近は慣れてきたように思うが、こんな状況で、自分があれこれと世話を焼いたら辛いだけかもしれない。
しかし、大事な人が苦しんでいるのに何もせずに見ているだけというのは辛いものだ。何もできないから気を紛らわすこともできない。
────甘かったな。俺は……。
同棲すれば少しは綾芽も元気になるかもしれないと思っていた。彼女の負担が少しでも減れば元気になると思った。だが、それは彼女にとって負担がさらに増えることなのだ。
「俊介……綾芽ちゃん、もし結婚式に来れなさそうなら、無理しなくてもいいわ。お祝いなんているでも出来るし、また会えるから」
「悪い……彼女には俺から伝えておく」
「気にしないでねって伝えておいて。きっとまた落ち込んじゃうと思うから」
聖の結婚式はもう数日後に迫っている。このままだと、本当に綾芽は出席出来なくなるだろう。彼女はきっと行きたいに違いない。だが、それで無理をしてまた綾芽の負担になったら────。
励まされたはずなのに俊介は落ち込んだままだった。せっかくのクリスマスも、このままではとても祝える雰囲気ではない。自分は見ているだけしか出来ないのだ。