とある企業の恋愛事情 -ある社長秘書とコンビニ店員の場合-
第4話 贅沢は敵!
綺麗な桃色の紙袋を握ったまま綾芽は固まった。
────すごい気を遣ってくれたんだろうけど……。
紙袋には『Champ de fleurs』と書かれている。このビルがある通りにある洋菓子店だ。
可愛らしい外観の店で、綾芽も通勤の時にいつも通るが、入ったことは一度もない。
クリアケースに入ったマカロンは綺麗なリボンで丁寧にラッピングされていた。一体いくらするのだろう。確かマカロンは高級な菓子のはずだ。
ただの水と数百円の薬のお礼にしては高価すぎる。
あの男性が申し訳なく思ってこれを買ってきてくれたことは理解できたが、綾芽はその気遣いが嫌だった。
借金まみれの父親がよく言っていた、「俺がしてやっているんだ」、「俺が食わせてやっているんだ」というセリフ。
あの言葉のせいか、他人に何かしてもらうことに拒否反応を示してしまう。
それに、あの男性にも言った通り、自分で稼いだお金は自分のために使って欲しかった。稼いだ金のほとんどを父親の借金に取られている自分には、どうしても申し訳なく思えたのだ。
自分が買った水と薬は彼が気分を悪くして倒れることを思えば安いものだ。それは惜しいとは思わない。
だが、このマカロンは違う。マカロンを食べなくても自分は別に困ったりしない。贅沢品だ。
しかし、あの男性が誠実だからこそなのだろう。相当真面目で律儀な男性のようだ。
彼は酔って醜態を晒したと捉えているようだが、実際彼はベンチに座って気分悪そうな顔をしていただけだ。吐いてもいないし寄って人に絡んだりもしていない。酔って人前で醜態を晒すと会社に迷惑がかかると思ったのかもしれない。
綾芽は袋をバックヤードのロッカーにしまい、店に戻った。
途中になっていたデザートコーナーの品出しをしていると、荷物の中に偶然マカロンが入っていた。
そういえば、今週から新商品のデザートがいくつか入荷すると聞いていた。マカロンは五個入りで『798円』だ。ということは一個あたり大体百六十円もする。
彼が買ったのは洋菓子店だから、コンビニスイーツより高価なはずだ。そう思うと綾芽はめまいがした。
自分こそ、もらってばかりでお礼しなければならないのではないだろうか。
最初に会った時は老舗和菓子屋の菓子折をもらったし、今度は高級マカロンだ。こんなものをもらってばかりでは申し訳なくなってくる。
だが、自分にはこれに見合うだけの返礼をする余裕はない。金が捻出できないわけではないが、できるだけ使いたくないのだ。
綾芽が悶々としている横で、早速OLが品出しされたばかりのマカロンを一つレジへ持っていった。綾芽は慌ててレジへ向かった。
マカロンを買ったのは綺麗な淡いブルーのスカートを履いたコンサバ系ファッションの女性だ。いかにもオフィスレディらしい。手は真っ白でちっとも陽に焼けていないし、爪はスカートと同じ色の可愛らしいネイルをつけている。髪は落ち着いた茶髪で、緩くカールを巻いていた。
マカロンのように甘い雰囲気の女性は、マカロンの他にフルーツスムージーも買った。職場のおやつといったところだろうか。
おやつとジュースで千円近い金額を出しているなんて信じられないが、この会社に勤めている人間は基本的にこんな状態だ。珍しいことではなかった。
ただ、マカロンを買うような女性が気になって観察してみたが、普通はこうなのだろう。
間違っても、自分のようなお洒落っ気も女子力のかけらもない女が食べる代物ではないのだ。
────すごい気を遣ってくれたんだろうけど……。
紙袋には『Champ de fleurs』と書かれている。このビルがある通りにある洋菓子店だ。
可愛らしい外観の店で、綾芽も通勤の時にいつも通るが、入ったことは一度もない。
クリアケースに入ったマカロンは綺麗なリボンで丁寧にラッピングされていた。一体いくらするのだろう。確かマカロンは高級な菓子のはずだ。
ただの水と数百円の薬のお礼にしては高価すぎる。
あの男性が申し訳なく思ってこれを買ってきてくれたことは理解できたが、綾芽はその気遣いが嫌だった。
借金まみれの父親がよく言っていた、「俺がしてやっているんだ」、「俺が食わせてやっているんだ」というセリフ。
あの言葉のせいか、他人に何かしてもらうことに拒否反応を示してしまう。
それに、あの男性にも言った通り、自分で稼いだお金は自分のために使って欲しかった。稼いだ金のほとんどを父親の借金に取られている自分には、どうしても申し訳なく思えたのだ。
自分が買った水と薬は彼が気分を悪くして倒れることを思えば安いものだ。それは惜しいとは思わない。
だが、このマカロンは違う。マカロンを食べなくても自分は別に困ったりしない。贅沢品だ。
しかし、あの男性が誠実だからこそなのだろう。相当真面目で律儀な男性のようだ。
彼は酔って醜態を晒したと捉えているようだが、実際彼はベンチに座って気分悪そうな顔をしていただけだ。吐いてもいないし寄って人に絡んだりもしていない。酔って人前で醜態を晒すと会社に迷惑がかかると思ったのかもしれない。
綾芽は袋をバックヤードのロッカーにしまい、店に戻った。
途中になっていたデザートコーナーの品出しをしていると、荷物の中に偶然マカロンが入っていた。
そういえば、今週から新商品のデザートがいくつか入荷すると聞いていた。マカロンは五個入りで『798円』だ。ということは一個あたり大体百六十円もする。
彼が買ったのは洋菓子店だから、コンビニスイーツより高価なはずだ。そう思うと綾芽はめまいがした。
自分こそ、もらってばかりでお礼しなければならないのではないだろうか。
最初に会った時は老舗和菓子屋の菓子折をもらったし、今度は高級マカロンだ。こんなものをもらってばかりでは申し訳なくなってくる。
だが、自分にはこれに見合うだけの返礼をする余裕はない。金が捻出できないわけではないが、できるだけ使いたくないのだ。
綾芽が悶々としている横で、早速OLが品出しされたばかりのマカロンを一つレジへ持っていった。綾芽は慌ててレジへ向かった。
マカロンを買ったのは綺麗な淡いブルーのスカートを履いたコンサバ系ファッションの女性だ。いかにもオフィスレディらしい。手は真っ白でちっとも陽に焼けていないし、爪はスカートと同じ色の可愛らしいネイルをつけている。髪は落ち着いた茶髪で、緩くカールを巻いていた。
マカロンのように甘い雰囲気の女性は、マカロンの他にフルーツスムージーも買った。職場のおやつといったところだろうか。
おやつとジュースで千円近い金額を出しているなんて信じられないが、この会社に勤めている人間は基本的にこんな状態だ。珍しいことではなかった。
ただ、マカロンを買うような女性が気になって観察してみたが、普通はこうなのだろう。
間違っても、自分のようなお洒落っ気も女子力のかけらもない女が食べる代物ではないのだ。