とある企業の恋愛事情 -ある社長秘書とコンビニ店員の場合-
翌日、俊介は出勤前に朝食を買うついでに「立花さん」に一言謝罪を入れようとコンビニに立ち寄った。
彼女は出勤して、レジに立っていた。朝は人の出入りが激しい。少しだけ人がいなくなるのを待ち、手が空いた彼女に話し掛けた。
「昨日はうちの社員が失礼しました」
「いえ……」
「もうあれ以上は言わないと思いますが、もしなにかあったら遠慮なく言ってください」
「……あの」
「はい」
「立花さん」は上目気味に俊介を見上げた。どこか探るような視線だ。
「いつも色々していただいてありがたいんですが……そこまでして頂かなくても結構です。あれぐらい、一人でなんとか出来ます」
「……すみません。側から見ていて、少し心配なったもので」
「気を悪くされたらごめんなさい。でも、色々していただいて正直申し訳ないんです」
俊介はそうか、と落ち込んだ。自分は礼儀を尽くしたつもりだが、彼女にとっては重かったようだ。
真面目が取り柄だと言われてきたが、真面目でもいけないこともあるのだ。
仕事のことばかり考えても駄目、真面目でも駄目、それなら自分には一体なにが残っているのだろうか。
「あの」
「……はい」
彼女はやや俯いた俊介の顔を覗き込んだ。
「こうしましょう、私が今までの分のお礼をしますから、それでもうなにもしなくて結構です」
「お礼?」
「高価なお菓子も頂きましたし、助けていただいたいので、その分のお礼です。大したことは出来ませんけど……お食事とか、もしよかったら」
思いがけない誘いに俊介は驚いた。まさか彼女から誘われるとは思っても見なかった。
だが、デートなどではない。彼女のはただの「お礼」だ。正直大したことをしていないのにお礼などして貰うと申し訳ないが、それで彼女の気持ちが治るならそれもいいだろう。
「分かりました。問題ありません」
「えっと、じゃあ……いつなら空いていますか」
「今週なら今日か、木曜、あとは金曜の夜なら行けます」
「じゃあ、木曜でお願いします。時間は────」
「仕事が終わった後、ここに来ます」
「ありがとうございます。じゃあ、食べたいものを考えておいてください」
「分かりました。では、また木曜に」
コンビニを出て、俊介はぼんやりしながらエレベーターの前に辿り着いた。
木曜の就業後。予定を復唱するのは癖だ。確かその日は何も予定がなかったからすぐに帰れるだろう。
だが、店はどうしようか。正直食べたいものはない。それなら彼女が喜びそうな店に連れて行った方がいいのではないだろうか。
あまり遠くに行くのはよくないからこの近辺で探した方がいいだろう。かしこまらない店で、そこそこリーズナブルな雰囲気のいい店。
頭の中にいくつか店の候補を思い浮かべ、俊介はエレベーターに乗り込んだ。
彼女は出勤して、レジに立っていた。朝は人の出入りが激しい。少しだけ人がいなくなるのを待ち、手が空いた彼女に話し掛けた。
「昨日はうちの社員が失礼しました」
「いえ……」
「もうあれ以上は言わないと思いますが、もしなにかあったら遠慮なく言ってください」
「……あの」
「はい」
「立花さん」は上目気味に俊介を見上げた。どこか探るような視線だ。
「いつも色々していただいてありがたいんですが……そこまでして頂かなくても結構です。あれぐらい、一人でなんとか出来ます」
「……すみません。側から見ていて、少し心配なったもので」
「気を悪くされたらごめんなさい。でも、色々していただいて正直申し訳ないんです」
俊介はそうか、と落ち込んだ。自分は礼儀を尽くしたつもりだが、彼女にとっては重かったようだ。
真面目が取り柄だと言われてきたが、真面目でもいけないこともあるのだ。
仕事のことばかり考えても駄目、真面目でも駄目、それなら自分には一体なにが残っているのだろうか。
「あの」
「……はい」
彼女はやや俯いた俊介の顔を覗き込んだ。
「こうしましょう、私が今までの分のお礼をしますから、それでもうなにもしなくて結構です」
「お礼?」
「高価なお菓子も頂きましたし、助けていただいたいので、その分のお礼です。大したことは出来ませんけど……お食事とか、もしよかったら」
思いがけない誘いに俊介は驚いた。まさか彼女から誘われるとは思っても見なかった。
だが、デートなどではない。彼女のはただの「お礼」だ。正直大したことをしていないのにお礼などして貰うと申し訳ないが、それで彼女の気持ちが治るならそれもいいだろう。
「分かりました。問題ありません」
「えっと、じゃあ……いつなら空いていますか」
「今週なら今日か、木曜、あとは金曜の夜なら行けます」
「じゃあ、木曜でお願いします。時間は────」
「仕事が終わった後、ここに来ます」
「ありがとうございます。じゃあ、食べたいものを考えておいてください」
「分かりました。では、また木曜に」
コンビニを出て、俊介はぼんやりしながらエレベーターの前に辿り着いた。
木曜の就業後。予定を復唱するのは癖だ。確かその日は何も予定がなかったからすぐに帰れるだろう。
だが、店はどうしようか。正直食べたいものはない。それなら彼女が喜びそうな店に連れて行った方がいいのではないだろうか。
あまり遠くに行くのはよくないからこの近辺で探した方がいいだろう。かしこまらない店で、そこそこリーズナブルな雰囲気のいい店。
頭の中にいくつか店の候補を思い浮かべ、俊介はエレベーターに乗り込んだ。