とある企業の恋愛事情 -ある社長秘書とコンビニ店員の場合-
また綾芽とやり取りして、次の木曜に約束を取り付けた。
今度は主食を綾芽が用意すると言って、飲み物は青葉が持ってくることになった。
綾芽は変わったものは作れないと言っていたが、色々調べてくれたのだろう。おにぎりにしても少し変わった具材を入れたり、工夫をして食事を作ってくれた。青葉もそれに合うものを作った。
綾芽は青葉が作るものを珍しがって、なにが入っているか尋ねた。作っているのは大体執事時代に習ったり作ったりしたものだが、こんなふうに反応をもらたことは初めてだった。
綾芽が普段節約しているからそう思うのか、大して変わったものを作らなくても彼女はとても喜んでくれた。
それから、綾芽とのランチ会は大体週に一度、木曜に行うようになった。いつの間に定例行事になったのか、気が付いたらそうなっていた。
元々木曜なら俊介の時間が都合がつくからという理由だったが、毎回それでやるようにしていたらじゃあ次週も、というふうになったのだ。
木曜、昼休みになると俊介が席から立ち上がる。
木曜は打ち合わせやミーティングなどの大事な予定は入れないようにしていた。
俊介が立ち上がったのを見ると、横の席の本堂はまたか? と尋ねた。
「毎週木曜に女と逢引に出かける社長秘書か。くく……」
可笑しそうに笑う本堂に、俊介はムッとした。
「逢引じゃない。ただ食事してるだけだ」
「わざわざ木曜を事務所勤務の日にしてまでする食事なぁ?」
「うるさいな。お前は聖と行くんだろ。早く行け」
「ったく……真面目もここまでくると始末に負えねえな」
本堂のお小言を無視して俊介は外に出た。手にはもちろん今日のランチが入った紙袋を持っている。
綾芽はいつも俊介よりも先に来て席を取ってくれていた。
感情のない瞳が俊介の姿を見つけるとほんの少しだけ嬉しそうに笑う。それを見ると、俊介も嬉しくなるのだった。
「お疲れ様です」
「お疲れ。いつも悪いな」
「いえ、私の方が一階で近いだけですから」
最初のうちは負担がかかるのではないかと気にしていた綾芽だったが、最近はそういう発言は少なくなった。
あまりに綾芽が心配するので、俊介はルールを設けた。財布の負担になるほどのものは作らない。厳しくなったら遠慮なく言うこと、だ。
このルールは俊介にはあまり関係ないが、綾芽の負担にならないために設けたルールだ。どうしても綾芽は気を使ってしまうようだから、こう言っておけば綾芽も無理はしない。
どうしても無理になったら麦茶だけ持参してくれればいいと言っていたから、その日の食事は俊介担当になるだけだ。
「青葉さんは……ずっとあの会社にいたわけではないんですよね。どんな仕事をしていたんですか?」
今日の食事────一口サイズの握り寿司を頬張り、すっかり飲み込んでから綾芽は尋ねた。その手には既に綾芽が持参したほうじ茶のカップが握られている。
恐らく、こんな軽食を作るような仕事をしていたと言ったから、気になっていたのだろう。
だが、俊介は藤宮家で執事をしていたことを言おうかどうか迷った。いずれ言うことかも知れないが、まだ綾芽と知り合ったばかりで、彼女も完全に打ち解けたわけではない。関係がまた振り出しに戻っても嫌だった。
「基本は今と変わらないけど……まあ、人の世話をするような仕事かな。マネジメント業務……うーん、マネージャー……? まあそんなところだよ」
「だから人のお世話をするのが得意なんですね」
「そうだな……人の世話ばかりして来たから……」
それが綾芽との逢瀬に当てはまる一番適当な理由だ。
綾芽が困っているのだから、助けてやりたい。綾芽が幸せそうな顔をしているのだから、この行動に間違いはない。
だが、決定打に欠ける理由だ。これは俊介でなくとも出来ることだ。
このランチ会にもはや疑問を持つことはできない。
なんで? と言った瞬間、終わったしまうような気がした。
ただ楽しければ続く。現実に帰れば覚める夢だ。
今度は主食を綾芽が用意すると言って、飲み物は青葉が持ってくることになった。
綾芽は変わったものは作れないと言っていたが、色々調べてくれたのだろう。おにぎりにしても少し変わった具材を入れたり、工夫をして食事を作ってくれた。青葉もそれに合うものを作った。
綾芽は青葉が作るものを珍しがって、なにが入っているか尋ねた。作っているのは大体執事時代に習ったり作ったりしたものだが、こんなふうに反応をもらたことは初めてだった。
綾芽が普段節約しているからそう思うのか、大して変わったものを作らなくても彼女はとても喜んでくれた。
それから、綾芽とのランチ会は大体週に一度、木曜に行うようになった。いつの間に定例行事になったのか、気が付いたらそうなっていた。
元々木曜なら俊介の時間が都合がつくからという理由だったが、毎回それでやるようにしていたらじゃあ次週も、というふうになったのだ。
木曜、昼休みになると俊介が席から立ち上がる。
木曜は打ち合わせやミーティングなどの大事な予定は入れないようにしていた。
俊介が立ち上がったのを見ると、横の席の本堂はまたか? と尋ねた。
「毎週木曜に女と逢引に出かける社長秘書か。くく……」
可笑しそうに笑う本堂に、俊介はムッとした。
「逢引じゃない。ただ食事してるだけだ」
「わざわざ木曜を事務所勤務の日にしてまでする食事なぁ?」
「うるさいな。お前は聖と行くんだろ。早く行け」
「ったく……真面目もここまでくると始末に負えねえな」
本堂のお小言を無視して俊介は外に出た。手にはもちろん今日のランチが入った紙袋を持っている。
綾芽はいつも俊介よりも先に来て席を取ってくれていた。
感情のない瞳が俊介の姿を見つけるとほんの少しだけ嬉しそうに笑う。それを見ると、俊介も嬉しくなるのだった。
「お疲れ様です」
「お疲れ。いつも悪いな」
「いえ、私の方が一階で近いだけですから」
最初のうちは負担がかかるのではないかと気にしていた綾芽だったが、最近はそういう発言は少なくなった。
あまりに綾芽が心配するので、俊介はルールを設けた。財布の負担になるほどのものは作らない。厳しくなったら遠慮なく言うこと、だ。
このルールは俊介にはあまり関係ないが、綾芽の負担にならないために設けたルールだ。どうしても綾芽は気を使ってしまうようだから、こう言っておけば綾芽も無理はしない。
どうしても無理になったら麦茶だけ持参してくれればいいと言っていたから、その日の食事は俊介担当になるだけだ。
「青葉さんは……ずっとあの会社にいたわけではないんですよね。どんな仕事をしていたんですか?」
今日の食事────一口サイズの握り寿司を頬張り、すっかり飲み込んでから綾芽は尋ねた。その手には既に綾芽が持参したほうじ茶のカップが握られている。
恐らく、こんな軽食を作るような仕事をしていたと言ったから、気になっていたのだろう。
だが、俊介は藤宮家で執事をしていたことを言おうかどうか迷った。いずれ言うことかも知れないが、まだ綾芽と知り合ったばかりで、彼女も完全に打ち解けたわけではない。関係がまた振り出しに戻っても嫌だった。
「基本は今と変わらないけど……まあ、人の世話をするような仕事かな。マネジメント業務……うーん、マネージャー……? まあそんなところだよ」
「だから人のお世話をするのが得意なんですね」
「そうだな……人の世話ばかりして来たから……」
それが綾芽との逢瀬に当てはまる一番適当な理由だ。
綾芽が困っているのだから、助けてやりたい。綾芽が幸せそうな顔をしているのだから、この行動に間違いはない。
だが、決定打に欠ける理由だ。これは俊介でなくとも出来ることだ。
このランチ会にもはや疑問を持つことはできない。
なんで? と言った瞬間、終わったしまうような気がした。
ただ楽しければ続く。現実に帰れば覚める夢だ。