とある企業の恋愛事情 -ある社長秘書とコンビニ店員の場合-
後日、俊介は綾芽の件を聖に相談しようと思った。
突然「花屋にツテはないか?」、と尋ねたので、聖も驚いているようだったが。だが最後まで聞いたあと、彼女が返したのは俊介が想像していたよりも厳しい言葉だった。
「俊介、私がコネや贔屓で仕事を決めるようなことは絶対にないって知っているでしょう」
彼女の瞳はここ最近で見たことがないぐらい冷ややかだった。
だがそれも当然だ。聖は元々、社長であった父親にごまをする社員や血縁者ばかり優遇する父親をかなり嫌っていた。それが嫌で会社を継いだ後は徹底的に実力主義にしたのだ。
「はじめさんを常務にしたのは彼が優秀だからで、身内だからじゃない。俊介も同じよ。その子の境遇はかわいそうだと思うけど、だからと言って贔屓目に見て仕事を斡旋することは絶対にしないわ。そんな事をしたら社員のモチベーションが下がってしまう。それは分かるわよね」
「……悪かった。そういうつもりじゃないんだ」
「厳しい言い方をしてごめんなさい。つい、昔のことを思いしちゃって……」
「いや……お前が怒るのももっともだ。会社をまとめる立場で、それは絶対やったら駄目だからな。俺がおせっかい焼き過ぎたんだ。彼女にそう言われたわけじゃない。忘れてくれ」
聖の性格を考えれば当然だった。
頼まれたわでもないのに勝手に探したところでどうなるというのだろう。奨学金のことは彼女自身がした選択だ。仲良くなったとはいえ、なんでも首を突っ込んでいいと言われたわけではない。
「俊介、うちの会社は定期的に中途採用枠を取ってるでしょう」
「? ああ……」
「もしその子にやる気があるなら教えてあげて。贔屓目に見ることはできないけど、受験資格は特にないから誰でも受けられるわ。あとはまぁ……うちの会社に出入りしてるお店を紹介してあげるぐらいなら直接関わらないから、出来ると思う」
「……悪いな。お前はそういうことが嫌いなのに」
「私が嫌いなのは実力がない人間が小細工で贔屓されて本当に力のある人が報われないことよ。その人に本当にやる気があって会社にとって利益がある人間なら話は別よ。努力する機会は平等に与えられるべきだと思ってるから」
「ありがとう。話してみるよ」
「そうね、でもいい話が聞けてよかったわ。うちの会社も奨学金制度でも作ろうかしら」
「……お前はやるって言ったらすぐに実行するからな」
「行動力重視だってはじめさんに教わったからね」
「ま、そこはお礼を言うべきだな」
「でも、俊介変わったわね」
「変わった? 俺がか?」
「前の俊介だったら、さっきの私みたいにすぐに断ってたと思うわ。なんてったって真面目がウリだったから」
そうかもしれない。以前の自分だったら間違いなく綾芽から聞いた時点でストレートに言って綾芽を怒らせただろう。
だが、綾芽と出会ってから、そのなんでも真面目にやる性格は少し和らいだ。真面目は大事なことだが、それだけでは駄目だと分かったからだろうか。いや、相手の事情を考えることを学んだからだろうか。
「最初は俊介を利用してるのかと思ってちょっと心配してたの。俊介は秘書だし、どうしても私と一緒にいることが多いから、執事の時に比べておべっか使われることが増えたでしょう?」
「ああ……」
「でもその子は違うみたいね。健全なデートが好きみたいだし、私が紹介したお店も気に入ってくれたみたいだし。B級グルメが好きな子に悪い子はいないわよ」
「それはお前の贔屓目だろ?」
「上っ面だけじゃなくて、中身に惚れてくれてるっていう意味よ」
聖は得意げに笑った。
俊介はそんなことあるわけないだろ、と目を逸らした。綾芽がそんな事を考えているわけがない。
以前に比べて親しくなったが、それは恋とか好意とかそういうものではないはずだ。なら、彼女はいったいどういうつもりで自分といるのだろう。
きっと、親を亡くしているから兄のようなつもりなのかもしれない。でなければわざわざ食事の時間なんて作らないだろう。
理由が見つからないのだ。彼女が自分と一緒にいる理由が。
突然「花屋にツテはないか?」、と尋ねたので、聖も驚いているようだったが。だが最後まで聞いたあと、彼女が返したのは俊介が想像していたよりも厳しい言葉だった。
「俊介、私がコネや贔屓で仕事を決めるようなことは絶対にないって知っているでしょう」
彼女の瞳はここ最近で見たことがないぐらい冷ややかだった。
だがそれも当然だ。聖は元々、社長であった父親にごまをする社員や血縁者ばかり優遇する父親をかなり嫌っていた。それが嫌で会社を継いだ後は徹底的に実力主義にしたのだ。
「はじめさんを常務にしたのは彼が優秀だからで、身内だからじゃない。俊介も同じよ。その子の境遇はかわいそうだと思うけど、だからと言って贔屓目に見て仕事を斡旋することは絶対にしないわ。そんな事をしたら社員のモチベーションが下がってしまう。それは分かるわよね」
「……悪かった。そういうつもりじゃないんだ」
「厳しい言い方をしてごめんなさい。つい、昔のことを思いしちゃって……」
「いや……お前が怒るのももっともだ。会社をまとめる立場で、それは絶対やったら駄目だからな。俺がおせっかい焼き過ぎたんだ。彼女にそう言われたわけじゃない。忘れてくれ」
聖の性格を考えれば当然だった。
頼まれたわでもないのに勝手に探したところでどうなるというのだろう。奨学金のことは彼女自身がした選択だ。仲良くなったとはいえ、なんでも首を突っ込んでいいと言われたわけではない。
「俊介、うちの会社は定期的に中途採用枠を取ってるでしょう」
「? ああ……」
「もしその子にやる気があるなら教えてあげて。贔屓目に見ることはできないけど、受験資格は特にないから誰でも受けられるわ。あとはまぁ……うちの会社に出入りしてるお店を紹介してあげるぐらいなら直接関わらないから、出来ると思う」
「……悪いな。お前はそういうことが嫌いなのに」
「私が嫌いなのは実力がない人間が小細工で贔屓されて本当に力のある人が報われないことよ。その人に本当にやる気があって会社にとって利益がある人間なら話は別よ。努力する機会は平等に与えられるべきだと思ってるから」
「ありがとう。話してみるよ」
「そうね、でもいい話が聞けてよかったわ。うちの会社も奨学金制度でも作ろうかしら」
「……お前はやるって言ったらすぐに実行するからな」
「行動力重視だってはじめさんに教わったからね」
「ま、そこはお礼を言うべきだな」
「でも、俊介変わったわね」
「変わった? 俺がか?」
「前の俊介だったら、さっきの私みたいにすぐに断ってたと思うわ。なんてったって真面目がウリだったから」
そうかもしれない。以前の自分だったら間違いなく綾芽から聞いた時点でストレートに言って綾芽を怒らせただろう。
だが、綾芽と出会ってから、そのなんでも真面目にやる性格は少し和らいだ。真面目は大事なことだが、それだけでは駄目だと分かったからだろうか。いや、相手の事情を考えることを学んだからだろうか。
「最初は俊介を利用してるのかと思ってちょっと心配してたの。俊介は秘書だし、どうしても私と一緒にいることが多いから、執事の時に比べておべっか使われることが増えたでしょう?」
「ああ……」
「でもその子は違うみたいね。健全なデートが好きみたいだし、私が紹介したお店も気に入ってくれたみたいだし。B級グルメが好きな子に悪い子はいないわよ」
「それはお前の贔屓目だろ?」
「上っ面だけじゃなくて、中身に惚れてくれてるっていう意味よ」
聖は得意げに笑った。
俊介はそんなことあるわけないだろ、と目を逸らした。綾芽がそんな事を考えているわけがない。
以前に比べて親しくなったが、それは恋とか好意とかそういうものではないはずだ。なら、彼女はいったいどういうつもりで自分といるのだろう。
きっと、親を亡くしているから兄のようなつもりなのかもしれない。でなければわざわざ食事の時間なんて作らないだろう。
理由が見つからないのだ。彼女が自分と一緒にいる理由が。