とある企業の恋愛事情 -ある社長秘書とコンビニ店員の場合-
二人を見てしまったからなのか、その日からやけに二人の姿が目につくようになった。
二人は上司と部下だからか、よく行動を共にしているようだ。コンビニの中から会社のロビーはよく見える。二人が揃って外出する様子もよく見えた。
聖と呼ばれていた女性は綺麗な姿勢で歩く。その脇に青葉が立って、何か喋っているようだった。二人はこれから打ち合わせか何かなのだろうか。そんな様子を綾芽は胃がキリキリする思いで見ていた。
「どうしたんですか立花さん、外ばっかり見て」
突然声をかけられて綾芽の肩がびくっと動く。振り返ると萩原が不思議そうな顔をして綾芽の方を見ていた。
「……なんでもない」
「イケメンウォッチングですか? 俺も混ぜてくださいよ」
「馬鹿みたいなこと言わないで」
「だって藤宮コーポレーションって格好いい人多いじゃないですか。いいな〜俺もこんな会社入ったら女の子にモテモテになるのに」
「萩原君、就活生でしょう。ここ受けるの?」
「そりゃ受けたいですけど、藤宮コーポレーションって一部上場企業ですよ。大のつく超一流企業に、俺みたいな三流大学の男なんて受からないですよ。ただでさえここ、倍率高いのに」
「そっか……じゃああの人達は本当にエリートなんだね」
「そりゃそうですよ。藤宮に勤めてるなんて言ったら羨ましがられること間違いなしです。合コンじゃ超優遇されますよ」
それなら、青葉が彼女なしだとは考えづらい。どう見ても青葉は彼女がいそうだし、女性にモテそうな男だ。
あの聖という女性は青葉の彼女なのだろうか。そう見えたが、実際どうなのかまでは分からない。ただ、同じ会社内であそこまで親しくしているのだ。なんの関係もないということは考え辛い。
それなら、青葉は自分とのことを彼女にどう言っているのだろう。ここまで歳下なのだ。妹のような存在で働き詰めのかわいそうな女の子に手を差し伸べているだけなら、彼女も怒らないのかもしれない。
聞いた話ばかりだが、上司としての彼女の対応は拍手したくなるぐらい完璧なものだった。
しっかりしていて、エピソード一つ一つ聞いても部下を思いやる気持ちが伝わってくる。そんな女性なら、恋人が年下の女の子とランチをしていてもいい人助け、ぐらいに思うのかもしれない。自分はとてもそんなことは無理だが。
また別の日だった。
綾芽がコンビニからロビーを見ていると、またあの女性が通りがかった。
今日もビシッと決まったスーツに身を包み、綺麗な姿勢で歩いている。だが、その横に立っていたのは青葉ではなかった。
「あ────」
その男性は背はそこそこあって、髪は半分掻き上げたような髪型で、紺のスーツと赤いネクタイが印象的な男性だった。かっちりしたスーツの人間ばかりがいるロビーでは浮いていたが、お洒落には疎い綾芽から見てもお洒落だなぁと思う着こなしだ。
視線は鋭くきりっとした顔立ちで、顔も格好いい。ロビーにいる女性の社員達はうっとりした表情で彼を見ていた。
その男は彼女の横に立って一緒に歩いていた。二人は親しげだが、彼女の表情は青葉といる時とは少し違っていた。まるで心を許しているような、穏やかな目をしていた。それに、とても嬉しそうだ。
────どういうこと? 青葉さんはあの人と付き合っているんじゃなかったの?
綾芽は混乱した。
二人は別に手を繋いでいるわけではないしただ一緒に歩いているだけだが、そう思えるような空気感を漂わせていた。
彼は彼女のなんなのだろう。まさか、あの女性は二股をかけているのだろうか。そうだとしたら青葉は騙されていることになってしまう。
先ほどまでは悲しい気持ちに支配されていたのに、途端に腹立たしい気持ちが湧いてきた。
青葉が失恋すれば自分にとって好都合だが、それを素直に喜ぶことができない。
青葉はあの上司のことをとても信頼していたのだ。それなのに裏切られていたなんて知ったらショックを受けてしまう。ごちゃごちゃした気持ちが胸の中を渦巻いている、まさに混沌だ。
遠ざかる二人の後ろ姿を見ながら、綾芽は青葉のことを思うと気の毒に思えてならなかった。
二人は上司と部下だからか、よく行動を共にしているようだ。コンビニの中から会社のロビーはよく見える。二人が揃って外出する様子もよく見えた。
聖と呼ばれていた女性は綺麗な姿勢で歩く。その脇に青葉が立って、何か喋っているようだった。二人はこれから打ち合わせか何かなのだろうか。そんな様子を綾芽は胃がキリキリする思いで見ていた。
「どうしたんですか立花さん、外ばっかり見て」
突然声をかけられて綾芽の肩がびくっと動く。振り返ると萩原が不思議そうな顔をして綾芽の方を見ていた。
「……なんでもない」
「イケメンウォッチングですか? 俺も混ぜてくださいよ」
「馬鹿みたいなこと言わないで」
「だって藤宮コーポレーションって格好いい人多いじゃないですか。いいな〜俺もこんな会社入ったら女の子にモテモテになるのに」
「萩原君、就活生でしょう。ここ受けるの?」
「そりゃ受けたいですけど、藤宮コーポレーションって一部上場企業ですよ。大のつく超一流企業に、俺みたいな三流大学の男なんて受からないですよ。ただでさえここ、倍率高いのに」
「そっか……じゃああの人達は本当にエリートなんだね」
「そりゃそうですよ。藤宮に勤めてるなんて言ったら羨ましがられること間違いなしです。合コンじゃ超優遇されますよ」
それなら、青葉が彼女なしだとは考えづらい。どう見ても青葉は彼女がいそうだし、女性にモテそうな男だ。
あの聖という女性は青葉の彼女なのだろうか。そう見えたが、実際どうなのかまでは分からない。ただ、同じ会社内であそこまで親しくしているのだ。なんの関係もないということは考え辛い。
それなら、青葉は自分とのことを彼女にどう言っているのだろう。ここまで歳下なのだ。妹のような存在で働き詰めのかわいそうな女の子に手を差し伸べているだけなら、彼女も怒らないのかもしれない。
聞いた話ばかりだが、上司としての彼女の対応は拍手したくなるぐらい完璧なものだった。
しっかりしていて、エピソード一つ一つ聞いても部下を思いやる気持ちが伝わってくる。そんな女性なら、恋人が年下の女の子とランチをしていてもいい人助け、ぐらいに思うのかもしれない。自分はとてもそんなことは無理だが。
また別の日だった。
綾芽がコンビニからロビーを見ていると、またあの女性が通りがかった。
今日もビシッと決まったスーツに身を包み、綺麗な姿勢で歩いている。だが、その横に立っていたのは青葉ではなかった。
「あ────」
その男性は背はそこそこあって、髪は半分掻き上げたような髪型で、紺のスーツと赤いネクタイが印象的な男性だった。かっちりしたスーツの人間ばかりがいるロビーでは浮いていたが、お洒落には疎い綾芽から見てもお洒落だなぁと思う着こなしだ。
視線は鋭くきりっとした顔立ちで、顔も格好いい。ロビーにいる女性の社員達はうっとりした表情で彼を見ていた。
その男は彼女の横に立って一緒に歩いていた。二人は親しげだが、彼女の表情は青葉といる時とは少し違っていた。まるで心を許しているような、穏やかな目をしていた。それに、とても嬉しそうだ。
────どういうこと? 青葉さんはあの人と付き合っているんじゃなかったの?
綾芽は混乱した。
二人は別に手を繋いでいるわけではないしただ一緒に歩いているだけだが、そう思えるような空気感を漂わせていた。
彼は彼女のなんなのだろう。まさか、あの女性は二股をかけているのだろうか。そうだとしたら青葉は騙されていることになってしまう。
先ほどまでは悲しい気持ちに支配されていたのに、途端に腹立たしい気持ちが湧いてきた。
青葉が失恋すれば自分にとって好都合だが、それを素直に喜ぶことができない。
青葉はあの上司のことをとても信頼していたのだ。それなのに裏切られていたなんて知ったらショックを受けてしまう。ごちゃごちゃした気持ちが胸の中を渦巻いている、まさに混沌だ。
遠ざかる二人の後ろ姿を見ながら、綾芽は青葉のことを思うと気の毒に思えてならなかった。