とある企業の恋愛事情 -ある社長秘書とコンビニ店員の場合-
俊介は考えていたことを聖に伝えた。
聖は俊介が話終えるまで黙って無言で聞いていた。やがて話が終わると、無表情な瞳を机から上げて、「分かったわ」と答えた。
俊介は思わず聞き返した。
「分かったって……いいのか?」
「うちの不利益になるようなことはないでしょう。ただの創立記念パーティなんだから」
俊介は一ヶ月後にある会社の創立記念パーティの会場の手伝いを綾芽にさせてもいいかと尋ねた。
創立記念パーティは都内のホテルの宴会場を貸し切って行われる。基本的な設営などはホテルのスタッフに任せているが、細かいことは社員たちがやっていた。パーティでは会食もあるし、綾芽は宴会場の仕事はよくやっていると言っていたから場の流れもなんとなく分かるはずだ。
「許可は出すわ。あとは人事部と、本人にも伝達よろしくね」
「悪いな」
「会社のイベントなんかに連れて行くよりもうちょっと楽しいところに連れていてあげた方がいいんじゃない? せっかく仲直りしたのに」
「お金を使うと気を使うから、行く場所を選ぶんだよ」
「じゃあ、創立記念パーティに着てくるような服を彼女が持ってるとでも?」
聖に指摘されて今更気が付いた。創立記念パーティは準礼装でと社員達にも伝えている。綾芽がそんな礼服を持っているだろうか。いや、持っていないだろう。かと言って、バイトに行くのに服を買っていたらバイト代が軽く飛ぶ。
俊介は今更自分の考えの至らなさに呆れた。
「もう……藤宮家の執事が聞いて呆れるわね。昔の俊介が見たらカンカンよ」
「そうだったな……」
「仕方ないわね。私のお古でよかったら貸すわ。俊介、綾芽ちゃんのサイズ教えて」
「は!?」
「なに? 私の服のサイズだって見ただけで分かるんだから、綾芽ちゃんのサイズだって分かるでしょう」
聖はあっけらかんとしている。当然だ。俊介は聖の専属執事として服から靴のなにからなにまで選んでいたのだから。パッと見れば服のサイズぐらい当てることはできる。
だが、綾芽の服のサイズを当てることに抵抗を覚えた。分からなくはない。見れば大体わかる。しかし、いまだに友達止まりの自分が知っていい情報なのだろうか。
「なに恥ずかしがってるの。私の着替えだって手伝ってた癖に」
「お前のは仕事だろ」
「全く……先が思いやられるわ」
聖は呆れたように肩を落とした。
俊介は先日見た綾芽のワンピース姿を思い出し、大体の数字を聖に伝えた。改めて思ったが、綾芽は小さい。聖が太っているわけではない。綾芽が痩せているのだ。
あれだけ働いているのに普段の食事が質素だから太れないのだろうか。いや、もともと痩せ型なのかもしれない。
「じゃあ、何着か持ってくるから俊介が選んで」
「俺が選ぶのか」
「当たり前でしょ。私より俊介の方が綾芽ちゃんに詳しいんだから」
聖の手持ちの服は大体知っている。彼女が持っているレセプションパーティのドレスのほとんどは、俊介が彼女の母親の指示で購入したものばかりだ。派手なものが多かったが、あの中で綾芽に似合いそうなものはあるだろうか。
スタッフとして入るのであれば目立つ色は避けた方がいい。黒あたりが無難だが、彼女には地味すぎるかもしれない。
俊介はその夜綾芽にメッセージを入れた。正式にスタッフとしての仕事を申し込んだ。一ヶ月も先の話なので、綾芽はすぐに了承してくれた。親会社の仕事だといえばコンビニの店長も何も言わないのだろう。
必要な制服はこちらで支給すると言って彼女の不安を和らげたが、これだと本当に仕事を申し込んだだけでデートどころの話ではない。一緒にいられる時間があるのは嬉しいが、これでは甘い雰囲気にはなれないのではないだろうか。
聖は俊介が話終えるまで黙って無言で聞いていた。やがて話が終わると、無表情な瞳を机から上げて、「分かったわ」と答えた。
俊介は思わず聞き返した。
「分かったって……いいのか?」
「うちの不利益になるようなことはないでしょう。ただの創立記念パーティなんだから」
俊介は一ヶ月後にある会社の創立記念パーティの会場の手伝いを綾芽にさせてもいいかと尋ねた。
創立記念パーティは都内のホテルの宴会場を貸し切って行われる。基本的な設営などはホテルのスタッフに任せているが、細かいことは社員たちがやっていた。パーティでは会食もあるし、綾芽は宴会場の仕事はよくやっていると言っていたから場の流れもなんとなく分かるはずだ。
「許可は出すわ。あとは人事部と、本人にも伝達よろしくね」
「悪いな」
「会社のイベントなんかに連れて行くよりもうちょっと楽しいところに連れていてあげた方がいいんじゃない? せっかく仲直りしたのに」
「お金を使うと気を使うから、行く場所を選ぶんだよ」
「じゃあ、創立記念パーティに着てくるような服を彼女が持ってるとでも?」
聖に指摘されて今更気が付いた。創立記念パーティは準礼装でと社員達にも伝えている。綾芽がそんな礼服を持っているだろうか。いや、持っていないだろう。かと言って、バイトに行くのに服を買っていたらバイト代が軽く飛ぶ。
俊介は今更自分の考えの至らなさに呆れた。
「もう……藤宮家の執事が聞いて呆れるわね。昔の俊介が見たらカンカンよ」
「そうだったな……」
「仕方ないわね。私のお古でよかったら貸すわ。俊介、綾芽ちゃんのサイズ教えて」
「は!?」
「なに? 私の服のサイズだって見ただけで分かるんだから、綾芽ちゃんのサイズだって分かるでしょう」
聖はあっけらかんとしている。当然だ。俊介は聖の専属執事として服から靴のなにからなにまで選んでいたのだから。パッと見れば服のサイズぐらい当てることはできる。
だが、綾芽の服のサイズを当てることに抵抗を覚えた。分からなくはない。見れば大体わかる。しかし、いまだに友達止まりの自分が知っていい情報なのだろうか。
「なに恥ずかしがってるの。私の着替えだって手伝ってた癖に」
「お前のは仕事だろ」
「全く……先が思いやられるわ」
聖は呆れたように肩を落とした。
俊介は先日見た綾芽のワンピース姿を思い出し、大体の数字を聖に伝えた。改めて思ったが、綾芽は小さい。聖が太っているわけではない。綾芽が痩せているのだ。
あれだけ働いているのに普段の食事が質素だから太れないのだろうか。いや、もともと痩せ型なのかもしれない。
「じゃあ、何着か持ってくるから俊介が選んで」
「俺が選ぶのか」
「当たり前でしょ。私より俊介の方が綾芽ちゃんに詳しいんだから」
聖の手持ちの服は大体知っている。彼女が持っているレセプションパーティのドレスのほとんどは、俊介が彼女の母親の指示で購入したものばかりだ。派手なものが多かったが、あの中で綾芽に似合いそうなものはあるだろうか。
スタッフとして入るのであれば目立つ色は避けた方がいい。黒あたりが無難だが、彼女には地味すぎるかもしれない。
俊介はその夜綾芽にメッセージを入れた。正式にスタッフとしての仕事を申し込んだ。一ヶ月も先の話なので、綾芽はすぐに了承してくれた。親会社の仕事だといえばコンビニの店長も何も言わないのだろう。
必要な制服はこちらで支給すると言って彼女の不安を和らげたが、これだと本当に仕事を申し込んだだけでデートどころの話ではない。一緒にいられる時間があるのは嬉しいが、これでは甘い雰囲気にはなれないのではないだろうか。