とある企業の恋愛事情 -ある社長秘書とコンビニ店員の場合-
第15話 俊介の憂鬱
綾芽の後ろ姿を見ながら、俊介はまた暗い気持ちになった。
綾芽に会えばこの薄暗い気持ちも楽になるかと思ったが、話してもそれは変わらなかった。
つまらないと思われただろうか。だから帰ったのだろうか。今日はとてもお喋りになる気分ではなかった。綾芽があのバイトの青年のことを話すと、心の中にどんよりと重いものが浮かぶ。風邪をひいた時のように顔が熱っぽかった。
────聞くんじゃなかった。
青葉は一瞬で後悔した。
綾芽はあの青年と話す時はもっと楽しそうだっただろうか。今までは気にしたこともなかったが、彼は綾芽と歳が近い。ずっと一緒の職場で働いているのだ。仲良くなるに決まっている。十五歳も歳上の男より、同じ歳の頃の男の方が話しやすいのだろう。そう思うと気持ちが醜く歪んでいく。
まだ弁当は残っていたが、食欲がなくなったため弁当箱を途中で閉じた。
会社のロビーを通り過ぎるのが億劫で、足早にコンビニの前を通りすぎると慌ててエレベーターのボタンを押した。
今頃綾芽はあの青年と喋っているのだろうか。そうしている間に、自分の存在などどんどん忘れてしまうのではないだろうか。
先日は二人で海にまで行ったのに、そんな思い出は確かな自信にはならなかった。
デートは成功したと言えるが、特別甘い雰囲気になったわけではない、朝からずっと一緒に過ごしたからあまり遅くまで連れ回すと変な誤解を与えるし、だらだら過ごすと余韻がなくなると聞いたので明るいうちに帰した。本当は夜までいたかったが、恋人でもないのに一日中連れ回すのは気がひけた。
なら、さっさと恋人になってしまえばいい────。そう思ったが、なにせこういう性分なのでそう簡単には言えない。
恋愛なんてそんなものだが、確実に相手が自分のことが好きなわけでもないのにリスキーな手はとれなかった。失恋してしまえば引きずることは目に見えている。
秘書室に帰ると、本堂はいなかった。だが、隣の部屋から本堂と聖の声がする。今日は中で食べたのかもしれない。
俊介は執務室の扉を開けた。
「青葉? やけに早いな」
本堂と聖はソファに座ってコーヒーを飲んでいた。休憩時間を十五分も残して帰って来たのが気になったのだろう。不思議そうな顔をしていた。いつもはギリギリまで外にいるからだろう。
「ああ……ちょっとな」
「どうかしたの? 綾芽ちゃんとご飯食べてたんじゃなかったの?」
ローテーブルの上にはコンビニの袋が置いてあった。一階で買って来たのだろう。綺麗に口が閉じてある袋を見て、俊介はまた嫌な気分になった。
「────聖はなんで、十一歳がも離れた本堂を選んだんだ?」
素朴な疑問がふと口をついて出た。だが、その答えはすでに知っていた。
本堂は聖の最も優れた理解者で、尊敬できる人間だ。そして、何よりも自分を愛することができる人間だからだろう。分かっていたが、納得はできなかった。自分のことに当てはめるには条件が違いすぎた。
「どうしたの? いきなり……なにかあった?」
「十五歳も歳下の子を好きになるなんて、変だよな」
「どうしたのよ。この間はデートに行ったって楽しそうにしてたじゃない。なんでいきなりそんなこと言うの? 年齢なんて最初から分かっていたことでしょう?」
分かっていても、好きと言う気持ちに歯止めはかけられなかった。そしてこの気持ちが嫉妬だとも分かっていた。自分はあの青年に嫉妬しているのだ。だから思わず駆け寄った。二人が一緒にるところをこれ以上見たくなかった。
こんなことでヤキモチを妬くなんて十五歳も歳上の男がすることではない。余計に嫌われてしまう原因だ。
「何を気にしてるのか分からないけど、落ち込んでも物事はよくならないわ。ちょっと気分転換でもしたら? 考えすぎるとよくないわよ」
「お前の場合考えてると変な方向にいきがちだからな。爆発する前に発散しとけ」
気分転換に発散。そう言われても、仕事人間だった俊介には簡単に思いつかなかった。
綾芽に会えばこの薄暗い気持ちも楽になるかと思ったが、話してもそれは変わらなかった。
つまらないと思われただろうか。だから帰ったのだろうか。今日はとてもお喋りになる気分ではなかった。綾芽があのバイトの青年のことを話すと、心の中にどんよりと重いものが浮かぶ。風邪をひいた時のように顔が熱っぽかった。
────聞くんじゃなかった。
青葉は一瞬で後悔した。
綾芽はあの青年と話す時はもっと楽しそうだっただろうか。今までは気にしたこともなかったが、彼は綾芽と歳が近い。ずっと一緒の職場で働いているのだ。仲良くなるに決まっている。十五歳も歳上の男より、同じ歳の頃の男の方が話しやすいのだろう。そう思うと気持ちが醜く歪んでいく。
まだ弁当は残っていたが、食欲がなくなったため弁当箱を途中で閉じた。
会社のロビーを通り過ぎるのが億劫で、足早にコンビニの前を通りすぎると慌ててエレベーターのボタンを押した。
今頃綾芽はあの青年と喋っているのだろうか。そうしている間に、自分の存在などどんどん忘れてしまうのではないだろうか。
先日は二人で海にまで行ったのに、そんな思い出は確かな自信にはならなかった。
デートは成功したと言えるが、特別甘い雰囲気になったわけではない、朝からずっと一緒に過ごしたからあまり遅くまで連れ回すと変な誤解を与えるし、だらだら過ごすと余韻がなくなると聞いたので明るいうちに帰した。本当は夜までいたかったが、恋人でもないのに一日中連れ回すのは気がひけた。
なら、さっさと恋人になってしまえばいい────。そう思ったが、なにせこういう性分なのでそう簡単には言えない。
恋愛なんてそんなものだが、確実に相手が自分のことが好きなわけでもないのにリスキーな手はとれなかった。失恋してしまえば引きずることは目に見えている。
秘書室に帰ると、本堂はいなかった。だが、隣の部屋から本堂と聖の声がする。今日は中で食べたのかもしれない。
俊介は執務室の扉を開けた。
「青葉? やけに早いな」
本堂と聖はソファに座ってコーヒーを飲んでいた。休憩時間を十五分も残して帰って来たのが気になったのだろう。不思議そうな顔をしていた。いつもはギリギリまで外にいるからだろう。
「ああ……ちょっとな」
「どうかしたの? 綾芽ちゃんとご飯食べてたんじゃなかったの?」
ローテーブルの上にはコンビニの袋が置いてあった。一階で買って来たのだろう。綺麗に口が閉じてある袋を見て、俊介はまた嫌な気分になった。
「────聖はなんで、十一歳がも離れた本堂を選んだんだ?」
素朴な疑問がふと口をついて出た。だが、その答えはすでに知っていた。
本堂は聖の最も優れた理解者で、尊敬できる人間だ。そして、何よりも自分を愛することができる人間だからだろう。分かっていたが、納得はできなかった。自分のことに当てはめるには条件が違いすぎた。
「どうしたの? いきなり……なにかあった?」
「十五歳も歳下の子を好きになるなんて、変だよな」
「どうしたのよ。この間はデートに行ったって楽しそうにしてたじゃない。なんでいきなりそんなこと言うの? 年齢なんて最初から分かっていたことでしょう?」
分かっていても、好きと言う気持ちに歯止めはかけられなかった。そしてこの気持ちが嫉妬だとも分かっていた。自分はあの青年に嫉妬しているのだ。だから思わず駆け寄った。二人が一緒にるところをこれ以上見たくなかった。
こんなことでヤキモチを妬くなんて十五歳も歳上の男がすることではない。余計に嫌われてしまう原因だ。
「何を気にしてるのか分からないけど、落ち込んでも物事はよくならないわ。ちょっと気分転換でもしたら? 考えすぎるとよくないわよ」
「お前の場合考えてると変な方向にいきがちだからな。爆発する前に発散しとけ」
気分転換に発散。そう言われても、仕事人間だった俊介には簡単に思いつかなかった。