とある企業の恋愛事情 -ある社長秘書とコンビニ店員の場合-
第17話 俊介、三十六歳。初めての失恋。
慌ただしく部屋から出ていく綾芽を茫然と見ながら、俊介は激しい後悔に苛まれた。引き止めようと思えば出来たのに。出来なかった。綾芽の悲痛な表情を見て、自分が取り返しのつかないとんでもないことをしてしまったのだと気付いた。
ベッドの横に脱ぎ散らかした服を見て、愚かな自分に渇いた笑いが込み上げる。
昨夜の出来事は始めから終わりまで覚えている。綾芽が介抱してくれたことも、自分がキスしたことも。そして綾芽に告白したことも、綾芽から求めていた一言を聞けたことも。幻なんかではなかったはずだ。
抜け殻のように布団が盛り上がった隣のシーツを触ると、まだ少しだけ暖かかった。それは彼女がそこで眠っていた証だ。自分は確かに、綾芽を抱いたのだ。
だが、これは想定していなかったことだった。
元々、綾芽を食事に誘ったのは対抗心からだ。あの萩原とかいう青年と着飾って出かける綾芽を見て、いてもたってもいられなくなった。綾芽が自分から離れていくのではないか。興味がなくなってしまうのではないか。そんな焦りを抱いていた。
本堂に言われた通りだ。自分は酒を飲むとロクなことにならない。前回も綾芽に介抱されたというのに全く学習していない。
だが、案外自分はそれを狙っていたのかもしれない。綾芽の優しさに縋りたかった。綾芽がまだ自分に興味を失っていないことを確認したかったのかもしれない。
酔った勢いだ、と言われればそれまでだ。だが、意識ははっきりしていた。酒の助けを借りたことは間違いないが、何もかも酔ってやった行動ではない。
綾芽に伝えた想いに嘘はない。衝動で告白するなんてらしくないが、それだけ夢中だったのだ。
青葉は起き上がり、ベッドの上で首を垂れた。
スマートな告白には程遠い。本当はきちんとした場所で告白して、交際を申し込むつもりでいたのだ。酔って抱いてから「付き合って下さい」なんて順番がまるで違う。
綾芽だってそう思っているはずだ。だから、あんなに失望したような顔をしていたのだろう。
ベッドサイドに置かれた時計は六時半を表示していた。会社に行くにはかなり余裕がある。だが、とてものんびりしている気分にはなれなかった。
ぐちゃぐちゃになったベッドを放って浴室に向かう。シャワーのコックを捻り、頭を覚ますように冷水に頭を突っ込んだが、昨夜の感覚は消えなかった。
蕩けた顔の綾芽を下に、自分の中に眠っていた雄の部分がいちいち反応した。こんな絶望的な状況でまだそんなことを思い出すなんて、存外自分も男の本能が残っているのだろう。
何度も自分の名前を呼んだ綾芽がぎゅっと自分を抱きしめた。それは幸福な思い出だった。
────待てよ。なんで立花さんは俺を受け入れたんだ……?
綾芽は泣きながら出て行った。自分との行為が嫌だったからだろうか。いや、そんなことはないはずだ。なら、順番を間違えたからだろうか。それならなぜ止めようとしなかったのだろう。
一瞬近付いたと思ったら離れていく。綾芽が何を考えているか分からない。なのに惹かれているなんて矛盾だ。
綾芽といるとどんどん自分が崩れていく。それはいつもの自分ではない、もっと格好悪い、情けない男の姿だ。
ベッドの横に脱ぎ散らかした服を見て、愚かな自分に渇いた笑いが込み上げる。
昨夜の出来事は始めから終わりまで覚えている。綾芽が介抱してくれたことも、自分がキスしたことも。そして綾芽に告白したことも、綾芽から求めていた一言を聞けたことも。幻なんかではなかったはずだ。
抜け殻のように布団が盛り上がった隣のシーツを触ると、まだ少しだけ暖かかった。それは彼女がそこで眠っていた証だ。自分は確かに、綾芽を抱いたのだ。
だが、これは想定していなかったことだった。
元々、綾芽を食事に誘ったのは対抗心からだ。あの萩原とかいう青年と着飾って出かける綾芽を見て、いてもたってもいられなくなった。綾芽が自分から離れていくのではないか。興味がなくなってしまうのではないか。そんな焦りを抱いていた。
本堂に言われた通りだ。自分は酒を飲むとロクなことにならない。前回も綾芽に介抱されたというのに全く学習していない。
だが、案外自分はそれを狙っていたのかもしれない。綾芽の優しさに縋りたかった。綾芽がまだ自分に興味を失っていないことを確認したかったのかもしれない。
酔った勢いだ、と言われればそれまでだ。だが、意識ははっきりしていた。酒の助けを借りたことは間違いないが、何もかも酔ってやった行動ではない。
綾芽に伝えた想いに嘘はない。衝動で告白するなんてらしくないが、それだけ夢中だったのだ。
青葉は起き上がり、ベッドの上で首を垂れた。
スマートな告白には程遠い。本当はきちんとした場所で告白して、交際を申し込むつもりでいたのだ。酔って抱いてから「付き合って下さい」なんて順番がまるで違う。
綾芽だってそう思っているはずだ。だから、あんなに失望したような顔をしていたのだろう。
ベッドサイドに置かれた時計は六時半を表示していた。会社に行くにはかなり余裕がある。だが、とてものんびりしている気分にはなれなかった。
ぐちゃぐちゃになったベッドを放って浴室に向かう。シャワーのコックを捻り、頭を覚ますように冷水に頭を突っ込んだが、昨夜の感覚は消えなかった。
蕩けた顔の綾芽を下に、自分の中に眠っていた雄の部分がいちいち反応した。こんな絶望的な状況でまだそんなことを思い出すなんて、存外自分も男の本能が残っているのだろう。
何度も自分の名前を呼んだ綾芽がぎゅっと自分を抱きしめた。それは幸福な思い出だった。
────待てよ。なんで立花さんは俺を受け入れたんだ……?
綾芽は泣きながら出て行った。自分との行為が嫌だったからだろうか。いや、そんなことはないはずだ。なら、順番を間違えたからだろうか。それならなぜ止めようとしなかったのだろう。
一瞬近付いたと思ったら離れていく。綾芽が何を考えているか分からない。なのに惹かれているなんて矛盾だ。
綾芽といるとどんどん自分が崩れていく。それはいつもの自分ではない、もっと格好悪い、情けない男の姿だ。