とある企業の恋愛事情 -ある社長秘書とコンビニ店員の場合-
数日後、帰宅した俊介は綾芽にメッセージを送った。聖がお祝いしたいと言っているから、一緒に食事しないか、という内容だ。
綾芽からメッセージが返ってくるタイミングはいつも決まっている。朝出勤するまでの時間帯か、昼休憩の時か、夜十時以降だ。俊介と違い、いつでもスマホを見れるような状態ではないのだろう。
翌日朝になると綾芽から返事が返ってきた。内容は、しばらく忙しいのでもう少し待ってもらえないか、ということだった。
綾芽はコンビニの仕事を辞めたからもう片方の仕事が忙しいのだろう。仕事なら仕方ないと、俊介は聖にそれを伝え、食事会はもう少し先延ばしにすることになった。
その後、俊介は何度か綾芽を食事に誘ったが、いずれも忙しいと言って断られた。
しかし、俊介はようやく事の大きさに気付き始めた。
綾芽はコンビニの仕事を辞めてしまい、自分との接点がまるでなくなった。となると、綾芽と自分は会おうとしない限りは絶対に会えないということだ。今までが好条件すぎたのだろう。今更そのことに気づいて焦り始めた。
この日珍しく社員食堂を利用した俊介は、本堂、聖と共に空いている席に腰掛けた。
相変わらず目立っているが、聖がここを気に入っているから仕方ない。
社員食堂は基本的にこのビルを利用する人間全員に解放されている。だから清掃員であっても訪問客であっても、それぞれが持っている身分証さえ提示すれば買える仕組みだ。
だから本当なら、綾芽もここで食事する権利があった。彼女は節約のため利用していないようだったが、機会があるなら、ここで一緒に食べることができたかもしれない。ただ、目立つことは言うまでもないが。
目の前で並んで食事する聖と本堂を見て俊介は羨ましくなった。両思いになったが、綾芽は自分よりも多忙なためなかなか会う時間が取れない。このまま自然消滅なんてことにならないか心配だった。
「どうしたの俊介。全然箸が進んでないじゃない」
「どーせまたあの女のことでも考えてるんだろ」
本堂はピタリと当ててみせる。いや、俊介が仕事のこと以外で考えることなんて知れているから、消去法で当てただけかも知れない。
「彼女が忙しくて、なかなか会えないんだ」
「そっか、綾芽ちゃん仕事掛け持ちしてるのよね」
「元はと言えば俺がややこしいことするからコンビニ辞めることになったわけだし、俺のせいで過労になったりしたら……」
「聖の時より過保護になったな」
「そりゃあもう、あの俊介をメロメロにした女の子だもの」
本堂と聖はそれほど重い事態だと捉えていないようだ。毎日会える二人には分からないかもしれない。
「茶化すなよ、俺は真剣に悩んでるんだぞ」
「んなもん、さっさと結婚しちまえばいいだろ」
「そんなこと出来るか! 俺らはまだ付き合ったばっかりなんだぞ」
「交際期間ゼロで結婚した俺らに対する嫌味だな」
「ねー」
「そうじゃない。ただ、ちゃんとしたいんだ。彼女は色々苦労してるし安心させたいんだよ」
綾芽は子供の頃から随分苦労しているようだから、これ以上気苦労をかけたくなかった。気持ちの上ではもちろん結婚を視野に入れているしすぐそうしたい気持ちがないわけではないが、あくまでもそれは俊介自身の感覚だ。
「まぁ、それならそれで立場によって出来ることは色々変わるし、そうしたいって思ったらでいいんじゃない? 結婚までしなくても、同棲するって手もあるし。なんにしても綾芽ちゃんの意見を聞かないと」
「……そうだな」
「俊介の悪い癖よ。不安なことがあるならちゃんとお互い話さないと。せっかく恋人同士になったんだから、一人で抱え込んでちゃ駄目」
それもそうだ。以前のように行動したところでどうせ失敗することは目に見えている。それならはっきりと綾芽に言うべきかもしれない。綾芽だって自分の生活があるし、二人で考えれば少しはいい案も出てくるだろう。
綾芽からメッセージが返ってくるタイミングはいつも決まっている。朝出勤するまでの時間帯か、昼休憩の時か、夜十時以降だ。俊介と違い、いつでもスマホを見れるような状態ではないのだろう。
翌日朝になると綾芽から返事が返ってきた。内容は、しばらく忙しいのでもう少し待ってもらえないか、ということだった。
綾芽はコンビニの仕事を辞めたからもう片方の仕事が忙しいのだろう。仕事なら仕方ないと、俊介は聖にそれを伝え、食事会はもう少し先延ばしにすることになった。
その後、俊介は何度か綾芽を食事に誘ったが、いずれも忙しいと言って断られた。
しかし、俊介はようやく事の大きさに気付き始めた。
綾芽はコンビニの仕事を辞めてしまい、自分との接点がまるでなくなった。となると、綾芽と自分は会おうとしない限りは絶対に会えないということだ。今までが好条件すぎたのだろう。今更そのことに気づいて焦り始めた。
この日珍しく社員食堂を利用した俊介は、本堂、聖と共に空いている席に腰掛けた。
相変わらず目立っているが、聖がここを気に入っているから仕方ない。
社員食堂は基本的にこのビルを利用する人間全員に解放されている。だから清掃員であっても訪問客であっても、それぞれが持っている身分証さえ提示すれば買える仕組みだ。
だから本当なら、綾芽もここで食事する権利があった。彼女は節約のため利用していないようだったが、機会があるなら、ここで一緒に食べることができたかもしれない。ただ、目立つことは言うまでもないが。
目の前で並んで食事する聖と本堂を見て俊介は羨ましくなった。両思いになったが、綾芽は自分よりも多忙なためなかなか会う時間が取れない。このまま自然消滅なんてことにならないか心配だった。
「どうしたの俊介。全然箸が進んでないじゃない」
「どーせまたあの女のことでも考えてるんだろ」
本堂はピタリと当ててみせる。いや、俊介が仕事のこと以外で考えることなんて知れているから、消去法で当てただけかも知れない。
「彼女が忙しくて、なかなか会えないんだ」
「そっか、綾芽ちゃん仕事掛け持ちしてるのよね」
「元はと言えば俺がややこしいことするからコンビニ辞めることになったわけだし、俺のせいで過労になったりしたら……」
「聖の時より過保護になったな」
「そりゃあもう、あの俊介をメロメロにした女の子だもの」
本堂と聖はそれほど重い事態だと捉えていないようだ。毎日会える二人には分からないかもしれない。
「茶化すなよ、俺は真剣に悩んでるんだぞ」
「んなもん、さっさと結婚しちまえばいいだろ」
「そんなこと出来るか! 俺らはまだ付き合ったばっかりなんだぞ」
「交際期間ゼロで結婚した俺らに対する嫌味だな」
「ねー」
「そうじゃない。ただ、ちゃんとしたいんだ。彼女は色々苦労してるし安心させたいんだよ」
綾芽は子供の頃から随分苦労しているようだから、これ以上気苦労をかけたくなかった。気持ちの上ではもちろん結婚を視野に入れているしすぐそうしたい気持ちがないわけではないが、あくまでもそれは俊介自身の感覚だ。
「まぁ、それならそれで立場によって出来ることは色々変わるし、そうしたいって思ったらでいいんじゃない? 結婚までしなくても、同棲するって手もあるし。なんにしても綾芽ちゃんの意見を聞かないと」
「……そうだな」
「俊介の悪い癖よ。不安なことがあるならちゃんとお互い話さないと。せっかく恋人同士になったんだから、一人で抱え込んでちゃ駄目」
それもそうだ。以前のように行動したところでどうせ失敗することは目に見えている。それならはっきりと綾芽に言うべきかもしれない。綾芽だって自分の生活があるし、二人で考えれば少しはいい案も出てくるだろう。