とある企業の恋愛事情 -ある社長秘書とコンビニ店員の場合-
第20話 二度目の夜
俊介と付き合い始めて、綾芽はまず安堵するより危機を感じた。
自分は俊介の恋人になった。つまりそれは、彼の横に並べるだけの器量を求められるということだ。俊介が冴えないぶ男ならともかく、彼は社長秘書で仕事のできる人間だ。パッと見、欠点が見当たらない。
そんな男の隣に立とうと思ったら、ただのフリーターではマズいのだ。
金のことばかり考えているわけではないが、男性と付き合おうと思ったらそれなりに交際費がかかる。プラスアルファで化粧代や洋服代がかかって、今まで行かなかった美容室にもいかなければならなくなるだろう。となると、とてもではないが借金を返しながら俊介と付き合うなんて無理だった。
もちろん、そんなことを言うと俊介は自分が出すと言うだろう。それは断固として拒否したかった。
それにそれだけではない。いつまでも今のまま仕事していては先に進めないので、本格的に就職活動を始めなければならなかった。
以前、俊介に藤宮コーポレーションの中途採用のことや花屋を紹介することを言われたが、俊介に頼るつもりは微塵もなかった。俊介の厚意はありがたいが、これは性分だ。誰かに頼っていては、ダメ人間になる気がしてどうにも頼れなかった。
だが、就職活動を初めていくつか断られたところで、掛け持ちしながらでも雇ってくれる花屋を見つけた。時給は正直安いが、主婦も働いているため十五時や十七時のシフトがある。勉強しながら働くには丁度よかった。
この店の面接を受けて、綾芽はバイトとして採用が決まった。
受かってすぐ、綾芽は嬉しくて俊介に電話を入れた。俊介は電話の向こうで「本当か!?」と驚いてとても喜んでくれた。
こんなに喜ばれたのはいつぶりだろうか。高校受験に受かった時もそれほど喜ばれなかったというのに、赤の他人の俊介がここまで喜んでくれると奇妙だが、くすぐったい感じがした。
花屋の仕事は来月からになったので、綾芽はそれまで出来るだけバイトを入れた。花屋に勤め始めれば確実に給料が減るのがわかっていたからだ。
おまけに俊介からは何度も夕食に誘われて、更に聖からも二人が付き合ったお祝いをしたいと言われている。
ただでさえ着るものも限られているのに、それ用にゼロから衣装を揃えるのは大変なことだった。
だが、決して嫌なわけではなかった。俊介に会えると思えば頑張れたし、彼は時々たまに様子を見にアパートに訪れた。
そして俊介はその度についでだ、と言って買って来た弁当や惣菜を渡してきた。だがそれは彼なりの嘘なのだろう。
気を使われているとかえって申し訳なく思ったが、小さな親切には甘えることにした。
それはその方が俊介が喜ぶからでもあるが、人に頼らない頑固な自分のリハビリのためでもあった。
今までは人に甘えると気持ち悪かったが、俊介に甘えることは心地よかった。
俊介がかなり年上だからかもしれない。俊介がすること対して申し訳ない気持ちはあったが、不愉快にはならなかった。
自分は俊介の恋人になった。つまりそれは、彼の横に並べるだけの器量を求められるということだ。俊介が冴えないぶ男ならともかく、彼は社長秘書で仕事のできる人間だ。パッと見、欠点が見当たらない。
そんな男の隣に立とうと思ったら、ただのフリーターではマズいのだ。
金のことばかり考えているわけではないが、男性と付き合おうと思ったらそれなりに交際費がかかる。プラスアルファで化粧代や洋服代がかかって、今まで行かなかった美容室にもいかなければならなくなるだろう。となると、とてもではないが借金を返しながら俊介と付き合うなんて無理だった。
もちろん、そんなことを言うと俊介は自分が出すと言うだろう。それは断固として拒否したかった。
それにそれだけではない。いつまでも今のまま仕事していては先に進めないので、本格的に就職活動を始めなければならなかった。
以前、俊介に藤宮コーポレーションの中途採用のことや花屋を紹介することを言われたが、俊介に頼るつもりは微塵もなかった。俊介の厚意はありがたいが、これは性分だ。誰かに頼っていては、ダメ人間になる気がしてどうにも頼れなかった。
だが、就職活動を初めていくつか断られたところで、掛け持ちしながらでも雇ってくれる花屋を見つけた。時給は正直安いが、主婦も働いているため十五時や十七時のシフトがある。勉強しながら働くには丁度よかった。
この店の面接を受けて、綾芽はバイトとして採用が決まった。
受かってすぐ、綾芽は嬉しくて俊介に電話を入れた。俊介は電話の向こうで「本当か!?」と驚いてとても喜んでくれた。
こんなに喜ばれたのはいつぶりだろうか。高校受験に受かった時もそれほど喜ばれなかったというのに、赤の他人の俊介がここまで喜んでくれると奇妙だが、くすぐったい感じがした。
花屋の仕事は来月からになったので、綾芽はそれまで出来るだけバイトを入れた。花屋に勤め始めれば確実に給料が減るのがわかっていたからだ。
おまけに俊介からは何度も夕食に誘われて、更に聖からも二人が付き合ったお祝いをしたいと言われている。
ただでさえ着るものも限られているのに、それ用にゼロから衣装を揃えるのは大変なことだった。
だが、決して嫌なわけではなかった。俊介に会えると思えば頑張れたし、彼は時々たまに様子を見にアパートに訪れた。
そして俊介はその度についでだ、と言って買って来た弁当や惣菜を渡してきた。だがそれは彼なりの嘘なのだろう。
気を使われているとかえって申し訳なく思ったが、小さな親切には甘えることにした。
それはその方が俊介が喜ぶからでもあるが、人に頼らない頑固な自分のリハビリのためでもあった。
今までは人に甘えると気持ち悪かったが、俊介に甘えることは心地よかった。
俊介がかなり年上だからかもしれない。俊介がすること対して申し訳ない気持ちはあったが、不愉快にはならなかった。