とある企業の恋愛事情 -ある社長秘書とコンビニ店員の場合-
本堂はエレベーターを上がると、秘書室ではなく聖の執務室へ向かった。
ノックもせずに中に入っても、聖は怒らない。本堂の姿が見えると、デスクから顔を上げてぱあっと明るい顔をした。
「はじめさん、どうし────ああ、なるほどね」
聖は本堂が持っていたコンビニの袋を見て察したらしい。本堂はニヤッと笑って、ソファに腰掛けた。
買ってきたのは彼女の大好物だ。これを見てはさすがに休憩しなければと思ったのだろう。聖は立ち上がってコーヒーを淹れ始めた。
「噂になってるみたいだな」
「何が?」
背を向けた聖が聞き返す。
「青葉とアイツの相方のことだ」
「綾芽ちゃん?」
聖はスティックタイプのコーヒーを淹れたのだろう。持ってくるまでの時間がやけに早かった。隣に腰掛けると、本堂の顔を覗き込んだ。
「噂って、どういうこと?」
「青葉に彼女がいるんじゃないかって下の女どもが騒いでたぞ」
「えっなんで知ってるの?」
「どうも、どっかでアイツが女といるところを見かけたらしい。ま、取引先ってことも考えられるがな」
聖はコーヒーに口を付けると、思案顔で首を傾げた。
「まぁ、そうかもしれないけど……」
「おモテになる秘書様は大変なことで」
「なに? 羨ましいの?」
「んなわけねえだろ。面倒くせえ」
「まぁ、そんなふうに噂になるぐらいだから仲睦まじくしてたんじゃない? いいことじゃない」
「お前がそう思うならそれでいい」
「はじめさんは隣の席だから、私より色々聞くでしょう?」
色々どころか、わりと隅々まで聞いている方だ。なにせ、聖が女である分込み入った話がしづらいのだろう。そういう意味も含めて、本堂は相談されることが多かった。
いやではないが、とにかくさっさと落ち着いて欲しかった。俊介はとにかく立花綾芽にゾッコンで、猫可愛がりしている。彼女に何度怒られてもめげずにいるところは尊敬に値するが、あまりに可愛がりすぎて彼女が困っているようにも見えた。
俊介は元々人に尽くす方が好きなのだろう。彼女相手ならいくらでもその余地があるから本人は色々してやりたいのだろうが、彼女がそれを跳ね除けるから厄介だ。
「うろうろするぐらいならさっさと結婚しちまえばいいってのに」
「まぁまぁ。俊介が初めて本気になった子だもの。思うようにさせてあげたら?」
「アイツ、今まで女いなかったのか?」
最近になって否定されたが、俊介は今まで聖のことが好きだと思っていた。本人もそう思っていたようだが、どうやら立花綾芽の登場によってそれは別物だと感じたらしい。
本堂にとっては何よりだが、それを踏まえると俊介はずっと聖一筋で誰とも付き合っていなかったということになる。
「さぁ……そういう話は今までしたことないの。でも大学も行ってたし、私の知らないところで誰かと付き合ってたんじゃない? 俊介モテてたみたいだから」
「あの年で女と付き合ったことがねえってのは流石にねえだろ」
「彼女ぐらいはいたと思うけど……聞いたことないから分からないわ。でも、俊介のことだからいたとしても藤宮家の用事ばかり優先にして振られてそうよね」
「確かにな」
聖のいうことには一理ある。以前の俊介ならデートは二の次で、藤宮家を何よりも優先したに違いない。だが、今はそうではない。聖が社長に就任してから、俊介も会社の仕事に集中するようになった。聖も無理に仕事を振ったりはしないから、自分のことを考える余裕ができたのだろう。
それもあって、現在の俊介が出来上がったというわけだ。
ノックもせずに中に入っても、聖は怒らない。本堂の姿が見えると、デスクから顔を上げてぱあっと明るい顔をした。
「はじめさん、どうし────ああ、なるほどね」
聖は本堂が持っていたコンビニの袋を見て察したらしい。本堂はニヤッと笑って、ソファに腰掛けた。
買ってきたのは彼女の大好物だ。これを見てはさすがに休憩しなければと思ったのだろう。聖は立ち上がってコーヒーを淹れ始めた。
「噂になってるみたいだな」
「何が?」
背を向けた聖が聞き返す。
「青葉とアイツの相方のことだ」
「綾芽ちゃん?」
聖はスティックタイプのコーヒーを淹れたのだろう。持ってくるまでの時間がやけに早かった。隣に腰掛けると、本堂の顔を覗き込んだ。
「噂って、どういうこと?」
「青葉に彼女がいるんじゃないかって下の女どもが騒いでたぞ」
「えっなんで知ってるの?」
「どうも、どっかでアイツが女といるところを見かけたらしい。ま、取引先ってことも考えられるがな」
聖はコーヒーに口を付けると、思案顔で首を傾げた。
「まぁ、そうかもしれないけど……」
「おモテになる秘書様は大変なことで」
「なに? 羨ましいの?」
「んなわけねえだろ。面倒くせえ」
「まぁ、そんなふうに噂になるぐらいだから仲睦まじくしてたんじゃない? いいことじゃない」
「お前がそう思うならそれでいい」
「はじめさんは隣の席だから、私より色々聞くでしょう?」
色々どころか、わりと隅々まで聞いている方だ。なにせ、聖が女である分込み入った話がしづらいのだろう。そういう意味も含めて、本堂は相談されることが多かった。
いやではないが、とにかくさっさと落ち着いて欲しかった。俊介はとにかく立花綾芽にゾッコンで、猫可愛がりしている。彼女に何度怒られてもめげずにいるところは尊敬に値するが、あまりに可愛がりすぎて彼女が困っているようにも見えた。
俊介は元々人に尽くす方が好きなのだろう。彼女相手ならいくらでもその余地があるから本人は色々してやりたいのだろうが、彼女がそれを跳ね除けるから厄介だ。
「うろうろするぐらいならさっさと結婚しちまえばいいってのに」
「まぁまぁ。俊介が初めて本気になった子だもの。思うようにさせてあげたら?」
「アイツ、今まで女いなかったのか?」
最近になって否定されたが、俊介は今まで聖のことが好きだと思っていた。本人もそう思っていたようだが、どうやら立花綾芽の登場によってそれは別物だと感じたらしい。
本堂にとっては何よりだが、それを踏まえると俊介はずっと聖一筋で誰とも付き合っていなかったということになる。
「さぁ……そういう話は今までしたことないの。でも大学も行ってたし、私の知らないところで誰かと付き合ってたんじゃない? 俊介モテてたみたいだから」
「あの年で女と付き合ったことがねえってのは流石にねえだろ」
「彼女ぐらいはいたと思うけど……聞いたことないから分からないわ。でも、俊介のことだからいたとしても藤宮家の用事ばかり優先にして振られてそうよね」
「確かにな」
聖のいうことには一理ある。以前の俊介ならデートは二の次で、藤宮家を何よりも優先したに違いない。だが、今はそうではない。聖が社長に就任してから、俊介も会社の仕事に集中するようになった。聖も無理に仕事を振ったりはしないから、自分のことを考える余裕ができたのだろう。
それもあって、現在の俊介が出来上がったというわけだ。