とある企業の恋愛事情 -ある社長秘書とコンビニ店員の場合-
その夜、俊介は仕事が終わったあと綾芽にメッセージを送った。
『今日もお疲れ様。あまり無理しないように』。特別なことは書いていない。いつも送っている内容と同じだ。
それでも綾芽は仕事が終わったあと、『お疲れ様です。今日もとてもお客さんが多かったです』などと近況報告をしてくれる。返事が返ってくるのはいつも深夜に近いが、俊介はその返事が楽しみだった。
自宅に帰り、俊介は一番最初にキッチンの戸棚を開けた。シンクの後ろ側にある戸棚はこのマンションを買った時についていたもので、かなり収納スペースがあるため一人暮らしの俊介は棚を余らせていた。
中には皿がいくつかと、グラスが一つ。たいして入っていない。
クリスマスは元々レストランを予約していたが、先日その予約をキャンセルした。俊介にとっては賭けだったが、本堂の言葉を信じることにした。
クリスマスといえばどこのレストランも予約がいっぱいで、今から席を取ろうと思ってももう無理だろう。
女性ならそういうシチュエーションに憧れるかと思って予約したのだが、綾芽は気を遣って食事に集中できないかもしれない。それなら、家でゆっくりと過ごした方がいいと思った。
綾芽が来るなら皿とカトラリーをいくつか買い足しておく必要がある。グラスももう少し種類が必要だ。
振り返り、その先に見えるリビングを見て俊介はまた考えた。自分の部屋ながら、この部屋は殺風景だ。今まではこれが当たり前だと思っていたが、綾芽と二人でクリスマスを過ごすのにこれは味気なさすぎる。
執事時代に散々やったテーブルコーティネートも、聖の秘書になってからはほとんどしなくなった。せっかくだからクリスマスっぽくして目でも楽しめるようにした方がいい。あとはツリーも必要だろうか────。考え始めると色々なことが浮かぶ。
不思議なものだ、今までは仕事で散々やってきたというのに、あの時はお客様に失礼がないようにとそのことばかり考えていた。
だが本来、おもてなしとはこういうものなのだろう。相手のことを考えて何か行動を起こす。それで相手が喜んでくれたらこれに勝る喜びはない。
ノートを取り出し、そこに必要なものを書き込んでいく。準備が大変だろうが、考えている時間は楽しかった。
自分ときたら、まるで彼女の執事にでもなったみたいだ。やりすぎは良くないと分かっているのに、またこんなことばかりしてしまう。
俊介はスマホに目をやった。気が付いたらもう十一時過ぎだ。そろそろ綾芽も帰宅している頃だろうか。まだ返事は返ってきていなかった。
『今日もお疲れ様。あまり無理しないように』。特別なことは書いていない。いつも送っている内容と同じだ。
それでも綾芽は仕事が終わったあと、『お疲れ様です。今日もとてもお客さんが多かったです』などと近況報告をしてくれる。返事が返ってくるのはいつも深夜に近いが、俊介はその返事が楽しみだった。
自宅に帰り、俊介は一番最初にキッチンの戸棚を開けた。シンクの後ろ側にある戸棚はこのマンションを買った時についていたもので、かなり収納スペースがあるため一人暮らしの俊介は棚を余らせていた。
中には皿がいくつかと、グラスが一つ。たいして入っていない。
クリスマスは元々レストランを予約していたが、先日その予約をキャンセルした。俊介にとっては賭けだったが、本堂の言葉を信じることにした。
クリスマスといえばどこのレストランも予約がいっぱいで、今から席を取ろうと思ってももう無理だろう。
女性ならそういうシチュエーションに憧れるかと思って予約したのだが、綾芽は気を遣って食事に集中できないかもしれない。それなら、家でゆっくりと過ごした方がいいと思った。
綾芽が来るなら皿とカトラリーをいくつか買い足しておく必要がある。グラスももう少し種類が必要だ。
振り返り、その先に見えるリビングを見て俊介はまた考えた。自分の部屋ながら、この部屋は殺風景だ。今まではこれが当たり前だと思っていたが、綾芽と二人でクリスマスを過ごすのにこれは味気なさすぎる。
執事時代に散々やったテーブルコーティネートも、聖の秘書になってからはほとんどしなくなった。せっかくだからクリスマスっぽくして目でも楽しめるようにした方がいい。あとはツリーも必要だろうか────。考え始めると色々なことが浮かぶ。
不思議なものだ、今までは仕事で散々やってきたというのに、あの時はお客様に失礼がないようにとそのことばかり考えていた。
だが本来、おもてなしとはこういうものなのだろう。相手のことを考えて何か行動を起こす。それで相手が喜んでくれたらこれに勝る喜びはない。
ノートを取り出し、そこに必要なものを書き込んでいく。準備が大変だろうが、考えている時間は楽しかった。
自分ときたら、まるで彼女の執事にでもなったみたいだ。やりすぎは良くないと分かっているのに、またこんなことばかりしてしまう。
俊介はスマホに目をやった。気が付いたらもう十一時過ぎだ。そろそろ綾芽も帰宅している頃だろうか。まだ返事は返ってきていなかった。