She.
 あの日から彼女は、僕を見つけると話しかけてくるようになった。でもなぜか、
 「変な子~!」
 と呼ばれるのだ。あの時、そんな変なこと言ったかな。そんなことを考えていると、あっという間に、彼女は僕の目の前に来ていた。
 「変な子って呼ばないでくださいよ。」
 「ごめんごめん。」
 彼女は、いつも特に用がないのに呼ぶみたいで、購買にいたらジュースをねだってみたり、先生の話をしてみたり、昨日あったテレビの話をしたりしていた。
 僕はいつもバスケ部の友達と一緒にいて、彼女もあの先輩と一緒にいて、会ったら二人が話すから、必然的に暇つぶしの相手をさせられているだけかもしれない。
 でも、彼女は僕が一人の時でも、彼女が一人の時でも、話しかけてくれたんだ。人懐っこい猫みたいだった。
 僕は、階段や購買で彼女に会えることが嬉しかった。だから、先輩に会いたがってるバスケ部の友達と一緒に何かしらの理由をつけて学校内をうろうろとしていた。
 僕は自分の中に芽生え始めている感情を知らなかった。知りたくなかっただけかもしれない。知ってしまったら、僕が僕じゃなくなる気がしたから。

 ある日、本当に突然に彼女から電話がかかってきた。電話に出てみると、今帰り道で、暇だからかけたというのだった。僕は、仕方なく暇つぶしに付き合ってあげることにした。耳元から聞こえる声のせいで、耳が熱くなっていってるのがわかる。彼女は楽しそうに今日のお弁当のおかずのことなんかを話していた。
 「友達少ないんですか?」
 素朴な疑問をぶつけてしまった。先輩は電話越しで少し戸惑っていたけど、僕は続けて 
 「いつも一緒にいる人しか話してるの見たことなくて。男の人なんて空気みたいな扱いしてるじゃないですか。」
 「よく見てるね。友達は少ない。前に色々あったから心許せる人があんまりいないの。それに、人見知りだしね。男の人はそもそも苦手。大丈夫な人もいるけどね。君みたいに。」
 彼女は僕の質問に一つ一つ丁寧に答えてくれた。
 「彼氏はいないんですか?」
 僕は聞いてしまった。でも聞くのが普通だと思った。いたら彼氏に悪いし。
 「前はいたけど今はいないよ。じゃあ、家に着いたから切るね。また明日。」
 そういって彼女は電話を切った。「また明日。」は明日が約束された感じがして嬉しかった。僕は、ご飯やお風呂の中、眠りにつくまで彼女のことを考えていた。
 少しだけ彼女のことを知れたこと。電話する相手を僕に選んでくれたこと。あと、僕が唯一彼女が話せる男の子だということがたまらなく嬉しくて、優越感に浸っていた。
 次の日学校に行くと、下駄箱に彼女がいた。僕は彼女に気がつくと、彼女もすぐに気がついたようで近くに駆け寄ってきた。
 「昨日はありがとう。また電話してもいい?」
 僕は頷くと、彼女はニコと笑って教室へ向かった。後ろからバスケ部の友達が見ていたらしく、からかってきた。
 「お前あの人のこと好きなの?」
 「違う!」
 といつもよりも大きい声で言ったものだから、友達もびっくりしていた。そして友達は、何かを察したように、
 「人を好きになるって悪いことじゃないぜ。」
 と言って、僕の肩に手を置いた。
 そんなこと僕だってわっかていた。でも、何かの本で読んだんだ。青春っていうのは自分のことで頭がいっぱいになることだって。僕は怖かったんだ。自分のことで、彼女のことで頭がいっぱいになるのが。彼女のことしか見えなくなるのが。
 だから、認めないようにしていた。認めてしまったら、彼女への気持ちが止まらなくなってしまいそうだったから。
 そんな僕の気持ちなんて知りもしないで、彼女はよく電話をかけてくるようになった。
 僕は、普通の後輩を演じ続けた。

 そんな生活を一か月ほど送ったある日、これから会わないかと言われた。もう時計の針は八時を過ぎていたし、雲行きが怪しかったのでまた今度にしようと提案した。しかし、彼女は、一向に折れず、彼女が僕の家の方まで行くからと言うので、少しだけということで会うことにした。
 自転車で駅まで迎えに行った。彼女はまだ着いていないらしかった。もう少しで着くよ!と連絡がきた。学校以外で会うのなんて初めてで、ドキドキしていた。 そこへ現れた彼女は制服の時とは印象が大分違い、可愛らしかった。白いフリルがついたブラウスにピチッとしたジーンズを履いて髪の毛もポニーテールにしてまとまっていた。
 僕は照れた顔を隠すように、自転車の後ろに乗せた。
 「どこへ行くんですか?」
 「どこでもいいよ」
 と言われたので近くの公園に行くことにした。向かっている最中に雨が降り始めてしまった。彼女は寒いと言って凍えていたので、僕の家によりパーカーを取ってきて彼女に渡した。彼女はお礼を言うと、さっそくパーカーを着て笑って見せた。彼女には少し大きめだった。
 公園に着くと彼女は少しコンビニに行ってくると言った。僕もついて行くと言ったが、公園からコンビニが見えていたのでひとりで行けると断られてしまった。
 もうその時点で九時をまわっていたし、来たばかりでなんだが、いつ帰るのか、彼女の家族は心配していないのか気になって仕方がなかった。
 彼女は帰ってくると、ベンチに買ってきたものを広げた。全部お酒だった。
 「未成年だろ?!」
 と僕は言ったが、彼女は僕の言葉を無視してお酒を飲んだ。彼女は清楚で優等生に見えるので、誰も彼女にこんな一面があるとは思ってもいないだろう。
 「君も飲む?」
 彼女は僕にお酒を渡してきた。僕はいけないことだとわかっていたが、飲んでしまった。彼女と同じ気分を味わいたかった。
 「何かあったんですか?」
 僕が聞くと彼女は、
 「いやなことがあるとつい飲んじゃうんだよね。ダメだってわかってるんだけど、やめられないんだよね。」
 と答えた。僕は、何があったのか深くは聞かなかった。彼女が話したいのであれば自分から話すだろうし、話さないということは触れてほしくないのかもしれない。
 「なんだか自傷行為みたいですね。」
 というと、真っ赤な顔をした彼女が大きく口を広げて笑いながら
 「そーかもね!自分の体を傷つけるのは怖いからこー言うことで逃げようとしてるのかもね!」
 と言った。でも、僕にはその気持ちがわからなかった。お酒の美味しさも、彼女が何から逃げたいのかも、自分を傷つけたくなる気持ちも。
 彼女は本当はあんまりお酒は強くないみたいだった。顔は真っ赤だしベロベロニ酔っぱらっていて、いつもの凛とした姿ではなくなっていた。
 もうすぐ公園を出ないと終電がなくなってしまう時間になっていた。彼女に聞くとまだ帰りたくないの一点張りだった。僕は何度ももう帰った方がいいと言ったが折れることはなかった。
 結局そんな言い争いをしていたら、時間が来てしまい終電を逃した。
 彼女は寒いと言って震えていた。こんな遅くに外に二人でいるのもまずいし、仕方なく僕の家に上げることにした。母には彼女が来ているから、部屋には来ないでくれと連絡を入れた。
 ベットを彼女に貸して、僕は床に寝ようとした。しかし、彼女は
 「なんで?遺書に寝ればいいじゃん。」
 と言った。僕は、一応男の子だぞ?この人はバカなのか?と思ったけど、いくら断っても彼女はひかないし、これ以上騒がしくされたくなかったので一緒に眠ることにした。
 布団に入ったが眠れるはずもなかった。正直なことを言うと、彼女のことが気になっていた。気になっている人が隣で寝ているのに平気な面してれられるわけがない。彼女の方を横目で見ると彼女はもうすでに眠っていた。
 僕はそのまま眠れずにどのくらい時間が経ったのだろう。外が明るくなり始めたころ
 「起きてる?」
 と小さい声で話かけてきた。僕は今起きたかのように
 「起きてるよ」
 と言った。その後彼女は何も言わずに、僕の方に寄ってきて、そっと僕を抱きしめた。僕は何が起きているのかわからずに、そのまま彼女に抱かれていた。少しすると彼女はいきなり立ち上がり、僕の部屋を後にした。僕はきっと追いかけるべきだった。でも、彼女がなぜあんなことをしたのか僕にはわからなかった。なんて言葉をかければいいのかも。でも、間違いがないことが一つ。彼女は僕の恋の歯車を回していってしまった。もうだれにも止めることはできない歯車を。
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