若旦那様は愛しい政略妻を逃がさない〜本日、跡継ぎを宿すために嫁入りします〜
「ちょっと待ってろ」

 彼は私をその場に残して出ていくと、一本の反物を持って戻ってきた。

「これで練習をするといい。汚れてもかまわない。これの数え方は一反、二反だ」

「一反、二反。わかりました」

 忘れないよう言葉にして、差し出された反物を受け取る。

 絢斗さんはまだ十反ほどあった反巻きをあっという間に終わらせてしまった。

 彼が反物を抱えたとき、おばあさまが現れた。その顔は怒りをこらえているといった表情だ。うしろに当惑している翠子さんもいる。

「まあ! 絢斗さんがやったのかしら?」

「おばあさま、反巻きは彼女には早すぎます。直治常務がやり直すことになり、労力の無駄になりますよ。練習をさせてからにします」

 絢斗さんの言葉に、おばあさまは言葉を詰まらせる。

「おつかれさまでした。翠子もおつかれさま」

「……お先に失礼しますよ」

 孫ににっこり笑みを向けられ、気を取り直した様子のおばあさまに、私は安堵する。

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