若旦那様は愛しい政略妻を逃がさない〜本日、跡継ぎを宿すために嫁入りします〜
「若旦那さま、若奥さま、おつかれさまでございました。若奥さま、こちらに着ていた服を入れておきました」

 翠子さんが隅に紙袋を置いて頭を下げる。

「ありがとうございます」

 ふたりの姿が見えなくなり、私はひそめていた息を吐き出した。

「店は十時開店、夜の八時に閉店だが、おばあさまと翠子は五時で上がる」

 翠子さんは朝食も一緒にとっていて朝も早いから、いつ上がるんだろうと思っていたので納得して頷く。

「私は何時まで……?」

「六時までだが、そのときによるかもな。今日は七時に上がる。それまでここで反巻きの練習をしているように。――直治常務」
 
 ちょうど通りかかった直治常務を呼び、残りの反物を持たせて絢斗さんは商談ルームから出ていった。

「んー、疲れた……」

 着物を着ているせいか、いつもより疲れを感じる。

「でも慣れ……だよね」

 椅子に座りたい気持ちを抑えて、彼から渡された反物で練習を始めた。

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