若旦那様は愛しい政略妻を逃がさない〜本日、跡継ぎを宿すために嫁入りします〜
 その後も納得のいく反巻きはできず、手も痛くなってきた。そこへ絢斗さんが「帰ろう」と迎えに来る。

 練習用に渡された反物と紙袋を持って商談ルームを出る。

 直治常務や従業員たちに、「おつかれさまでした」と見送られてお店をあとにした。

 五分くらいで御子柴家に到着したが、その間絢斗さんは口を開かず、疲れきっている私も話しかけなかった。

 玄関で江古田さんに出迎えられる。

「若旦那さま、若奥さま、おかえりなさいませ。ご指示通りに衣裳部屋に運んでおります」

「ありがとう。澪緒、おいで」

 絢斗さんは玄関から直接二階へと向かい、私はそのあとをついていく。

 階段を上がって廊下を進み、私が泊まった部屋を通り過ぎ、突き当たりのドアを彼は開けた。

 そこには年代物だとわかるチェストや、価値のありそうな洋服ダンスが並んでいた。いわゆるウォークインクローゼットのようだ。
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