若旦那様は愛しい政略妻を逃がさない〜本日、跡継ぎを宿すために嫁入りします〜
 私は脂身のあるサーロイン、父は脂身のないフィレ。

「美味しそうだ。食べながら聞いてくれ」

「いただきます」

 ナイフとフォークを手にして、ミディアムレアのサーロインをカットする。

「若旦那の話だが、今のところ浮いた話、いや、恋人はいないようだ。二週間後に御子柴屋のパーティーがあるんだが、そこで出席者は娘や孫を紹介しようという魂胆だ」

「どうして彼に結婚を急がせるの?」

「彼はひとりっ子で、両親は二年前に事故で他界した。祖母だけが血縁者だ。このまま跡継ぎが生まれなければ、創業二百年を誇る御子柴屋が存続しなくなるからだろうな」

 跡継ぎができなければ、継いでくれる人を見つければいいのに、と思う。

「血のつながりがそんなに大事なの?」

「彼はどう考えているかわからないが、祖母は代々続いた呉服屋を彼の代で終わらせられないと思っているようだ。そうでなければ進んで嫁探しはしないだろう」

「パパは私と彼を結婚させて、そこの着物を置かせてもらいたいのね?」

 そう言ってから冷めないうちにひと口サイズに切ったお肉を口に入れる。

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