若旦那様は愛しい政略妻を逃がさない〜本日、跡継ぎを宿すために嫁入りします〜

恋に落ちる瞬間

 翌日から、御子柴屋の若奥さまとしての本格的な修業が始まった。

 御子柴屋の店舗へ着いたのは八時半。朝礼には絢斗さんとおばあさまはおらず、直治常務が従業員の島谷さんと香(か)川(がわ)さんに私を紹介してくれる。

 ふたりとも二十代後半のきっちりとした真面目な雰囲気の女性だ。

 本店の販売員はまだ数人いるが、出社時間はシフト制とのこと。二階に事務室があり、そこで働く従業員が十人ほどいるらしい。

 開店前に、三人で一階のフロアと外の掃除をするようだ。

「私はどこを掃除すればいいでしょうか?」

 ふたりに尋ねると、外をほうきで掃いて窓を拭いてほしいと言われる。

 ミントグリーンのワンピースの上に、裾に御子柴屋のロゴの入ったクリーム色のエプロンをつけ、掃除道具を手に外へ出た。

 街路樹の枯葉がほんの少し落ちているだけでさほど汚れていない。

 日本の十月中旬は肌寒くて、ロスの気候が懐かしくなる。

 とりあえず三カ月、絢斗さんの婚約者として過ごすことに決めたけれど、私に御子柴屋の若奥さまが務まるのか考えてしまう……。

 どうであれ、まずはおばあさまに小言を言われないようにしなくちゃね。

< 124 / 158 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop