若旦那様は愛しい政略妻を逃がさない〜本日、跡継ぎを宿すために嫁入りします〜
「髪飾り……?」

「かんざしだ。バチ型のべっ甲と螺鈿でできている」

 べっ甲にはパールも装飾されていた。

 彼は私の前に立つ。それがものすごく近くて、絢斗さんから漂ってくる白檀の香りを思いっきり吸い込んでしまう。思わず後ずさるも、彼の手が伸びてきて、肩を引き寄せられた。

「離れるな」

 昨日は無意識に抱きつけたのに、今は近づくことがとても恥ずかしい。白檀の香りにドキドキさせられてしまうからだ。

 若干俯いて、絢斗さんが私の髪にかんざしを挿し終えるのを待つ。

「これでいい。着物もかんざしもよく似合っている」

 絢斗さんが二歩ほど離れ、ホッと胸をなでおろす。

「……ありがとうございました」

 褒められて赤面してしまいそうだ。照れ隠しに社長室の大きな鏡に自分を映して、髪飾りがよく見えるように顔をあちこち向ける。

 とても美しいかんざしだ。

 鏡に映るかんざしを見ていたらふと、絢斗さんの涼しげな眼差しとぶつかり、鼓動が大きく弾んだ。

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