若旦那様は愛しい政略妻を逃がさない〜本日、跡継ぎを宿すために嫁入りします〜
「漆黒のように美しい髪だからべっ甲のかんざしが映えるな。それを取り寄せて正解だった」

「取り寄せたんですかっ? 若旦那さま、もう買わないでください」

「言っただろう? 御子柴屋の若奥さまがきちんとした身なりをしていなければ、笑いものになると」

「……でした」

 絢斗さんにとって私は御子柴屋の若奥さまとして体裁を保つためにいるのだ。

「今日の着付けは五十点だな」

「えっ? 五十点? 島谷さんと香川さんは褒めてくれたのに」

「おはしょりが歪みすぎだし、帯も緩いな。これでは夜までもたない」

「ううっ……」

 つい子供みたいに頬を膨らませると、指先で押される。

「ふてくされるな。上達は早い方だ。開店前におばあさまに挨拶をしてきて」

 褒められて顔が緩んでくる。

「はい。そうします」

 社長室を出ていこうとしたら、背後から呼び止められて振り返る。

「今日は十八時に上がる。ハンバーガーを食べに行くんだろう?」

「あ、はいっ!」

 絢斗さんとの約束を思い出して得した気分になる。

 にっこり笑顔を向けてから社長室をあとにし、その足でおばあさまの執務室へ向かう。

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