若旦那様は愛しい政略妻を逃がさない〜本日、跡継ぎを宿すために嫁入りします〜
「その通りだ。お前は綺麗だ。若旦那の目に留まるだろう。どうかパーティーに出席してくれないか?」

「……私はここを離れられないわ。まだママの医療費の借金があるの」

「借金が? いくらだね」

「一万ドルよ」

 日本円で百万円を少し超える金額だ。生活費を切り詰め、かなりの金額を借金返済にあてているが、少しも減ってはいかない。

「一万ドルは私が出そう」

「えっ? パパにはたくさんもらっているわ。その上――」

「日本へ一度来てくれ。パーティーに出てもらえればそれでいい」

「私を気に入ってもらえなかったらどうするの?」

「そのときは仕方がない。御子柴屋との業務提携は諦める」

 父は肩をすくめてみせると、フィレ肉にナイフを入れた。食事をする父に、二年前より急激に年をとった印象を受ける。

 母が倒れて多額の医療費が必要になったとき、父はすぐに用意してくれた。父が不誠実だったばかりに母と離婚したが、今まで援助してくれたことには感謝している。

「パパ、ひと晩考えさせて」

 赤ワインの入ったグラスを手に持った父は動きを止めて、顔をほころばせる。

「そうか。考えてくれるか。ありがとう」

「滞在はいつまで?」

 父は、明後日の朝チェックアウトして帰国するそうだ。「明日の返事を待っている」と言って、食事を終えた私をホテルの外まで送ってくれた。

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