若旦那様は愛しい政略妻を逃がさない〜本日、跡継ぎを宿すために嫁入りします〜
「顔が真っ赤なのは咳き込んだだけじゃないよな」

 紙ナプキンで口元を拭きながら、気持ちを落ち着ける。

「んんんっ! そんな話、こんなところでしないでくださいっ」

 すぐ近くに人がいないことも彼には計算済みのような気がする。

「君にははっきりわかりやすい言葉にしようと気を遣っているんだぞ? 抱けないだろうと言っても、ハグのようなものだと勘違いされるだろうしな」

「たしかにその意味にとっちゃいますけど……」

 今までは避けてきたことだけど、彼とそうなる場面を想像して、それが嫌じゃなかった。

「……私ならいいの?」

「クッ、澪緒のはっきりしたところが好きだ。もちろん。そうでなければ君を妻にとは思わない」

「ねえ? 過去に苦い恋の経験でもした……?」

「苦くはないが、澪緒は男を信じられないと言っただろう? 俺もそんなところだ。ほら、冷めるぞ」

 そう言われて、ポテトフライをケチャップにつけて口に入れる。

「借金だが、早く返した方がよくないか?」

「う……ん、でもまだ。ほら、病院の検査結果も出ていないし。もしかしたら子供ができないかもしれないし」

 借金を払ってもらったら完全に彼の妻になる。私としてはまだ彼を知ってから決めたいと思っている。

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