若旦那様は愛しい政略妻を逃がさない〜本日、跡継ぎを宿すために嫁入りします〜
 三十分後、父がタクシーに乗せてくれたおかげで早くに帰宅することができた。

 明かりのついていない部屋に戻るのは今でも慣れなくて寂しい。

 すぐにシャワーを浴びて、洗った髪を丁寧に乾かし、ぐったりとベッドに腰を下ろす。長い髪は洗うのも乾かすのも時間がかかる。

 しかし明日は髪がメインの撮影がある。面倒でも艶を出す努力は必要だ。

「これって、ママが言っていたお見合いみたいな感じよね?」

 ふたりで日本のドラマを鑑賞していたとき、母が『見知らぬ男女が周りの勧めで会うのをお見合いって言うのよ』と話してくれた。

 あれはいつのことだっただろう。私が十四歳くらいだったかな。

 今で言うマッチングアプリのような感覚なのだろうか。

 父から押しつけられるようにして渡された彼の写真を取り出す。薄暗いロウソクの灯りで見た写真だったから、クールだと思ったのかもと目を凝らして見つめる。

「やっぱりハンサムね。日本語でイケメン?」

 ただそれだけでは収まりきらない魅力の持ち主のように思える。これだけの人なら自分で恋人を見つけられそうなのに……。

 母が財産を失ってから豪邸だった家を売り払い、ダウンタウンのこの2LDKのアパートに移り住んでいた。
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