若旦那様は愛しい政略妻を逃がさない〜本日、跡継ぎを宿すために嫁入りします〜
 チェストの上には私と母が顔を寄せて笑っている写真があり、自然とそちらに視線が行く。
 
 ひとりになってから、嬉しいときも悲しいときも、悩んでいるときも母だったらどうするのか考える。
 
 今の私は根無し草のような生活を送っている。本当に女優になりたいのかと聞かれれば違うと言うだろう。母の夢だったからそれを叶えなければという義務感からだ。

 親友はひとりだけいるが、男性に至っては完全に心を許せるほどの相手はいない。母が恋人に裏切られ、心身ともにボロボロになるのを見ていたせいだろう。向こうから必要以上に近づかれると一線を引いてしまうのだ。

 その気持ちがなくならない限り、ここで男性を信用するに至ることはないだろう。けれど、ひとり暮らしは寂しい思いもある。

 私の記憶にかすかに残る、両親が揃って家族三人で食卓を囲む、そんな家庭の光景に飢えていた。

 しかし、父の提案は突拍子もないもので、眠りにつくまで散々迷ったのに、目が覚めたときも決められないでいた。
 
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