若旦那様は愛しい政略妻を逃がさない〜本日、跡継ぎを宿すために嫁入りします〜
 スマホをテーブルの上に置いた私の口からため息ともつかない声が漏れる。
 
 突然の変更はたびたびあるから、これで落ち込んでいたら先に進めない。でも……〝先〟って?
 ふとやりきれない気持ちで自問する。
 
 大学に通いながら養成所で演劇を学び、エキストラの経験はあるが、セリフがついたことはない。

 まだ二十二歳。大学を卒業したばかりで、アルバイトをしながら、いつか女優になれたらと思っていたが……。このまま女優を目指していいのだろうか。いつかは地に足のついた生活をしなければと、焦燥感にも駆られている。

 恋人に裏切られた母の姿を見て男性不信になった私は、結婚もできるかわからない。信じられる男性にいつか出会えるのだろうか。

 五歳でロスに来てから一度も足を踏み入れたことのない日本へ行ってみようか……。

 父には母への多額な援助に感謝しており、なにかお礼ができたらいいと思っていた。借金返済のために利用するようで申し訳ないが。

 頑張ることに疲れてしまった。気分転換で日本へ行き、またここへ戻ってくればいい。

 こんな私が、二百年も続く呉服屋の若旦那に気に入られるわけがないのだから――。

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