若旦那様は愛しい政略妻を逃がさない〜本日、跡継ぎを宿すために嫁入りします〜
寿葉さんの着物のほとんどが御子柴屋のものだが、仕立て上がってすぐ俺の手を離れてしまうため、その模様は久しぶりに楽しませてくれた。
「ええ。それでは若旦那、失礼いたします」
襟を少し緩やかにし白いうなじを見せ、色香を漂わせたたおやかな寿葉さんはゆっくりとした足取りで人の波に消えていった。
九月も秋分が過ぎ、空はすっきり晴れ渡っているが、風はめっきり涼しくなってきた。
江戸時代から二百年続く老舗呉服屋の御子柴屋は、名門中の名門だと自負している。
三年前、時代の流れと共に老朽化した平屋の店舗を取り壊し、七階建てのビルを建設した。一、二階が御子柴屋、三階から七階までは貸店舗になっている。
自宅は店から徒歩五分のところにあり、明治時代に建てられたレンガ造りのモダン建築の二階屋に、俺のたったひとりの肉親である七十八歳の祖母、御子柴キヨとふたりで暮らしている。
広い家のため、俺が五歳のときから家の管理をしてくれている夫婦が敷地内の別棟に住んでいる。
人を招くことも多いため、通いの家政婦ふたりに屋敷を綺麗に掃除してもらっていた。
先々代より修繕を重ねてきたおかげで、古い屋敷だが素晴らしい状態を保っている。
「ええ。それでは若旦那、失礼いたします」
襟を少し緩やかにし白いうなじを見せ、色香を漂わせたたおやかな寿葉さんはゆっくりとした足取りで人の波に消えていった。
九月も秋分が過ぎ、空はすっきり晴れ渡っているが、風はめっきり涼しくなってきた。
江戸時代から二百年続く老舗呉服屋の御子柴屋は、名門中の名門だと自負している。
三年前、時代の流れと共に老朽化した平屋の店舗を取り壊し、七階建てのビルを建設した。一、二階が御子柴屋、三階から七階までは貸店舗になっている。
自宅は店から徒歩五分のところにあり、明治時代に建てられたレンガ造りのモダン建築の二階屋に、俺のたったひとりの肉親である七十八歳の祖母、御子柴キヨとふたりで暮らしている。
広い家のため、俺が五歳のときから家の管理をしてくれている夫婦が敷地内の別棟に住んでいる。
人を招くことも多いため、通いの家政婦ふたりに屋敷を綺麗に掃除してもらっていた。
先々代より修繕を重ねてきたおかげで、古い屋敷だが素晴らしい状態を保っている。