若旦那様は愛しい政略妻を逃がさない〜本日、跡継ぎを宿すために嫁入りします〜
 祖母は名門である御子柴屋を後世に残すのが使命だとばかりに、俺の結婚を急いでいる。
 
 御子柴屋をこれからも盛り立てていくには、跡取りが必要なのは十分承知しているが、俺の好みの女は周りにいない。
 
 招待状を出した招待客からはぜひ出席させてほしいと返事も届いており、百人を超える規模になる予定だ。
 
 はたして、その中に俺が気に入る女がいるのか。
 
 俺は他人事のように傍観していた。

 反物をすべて巻き終えたとき、テーブルの上のスマホが着信を知らせた。

 電話をかけてきたのは、幼稚舎の頃から四半世紀以上の付き合いがある一(いち)条(じょう)壮(そう)二(じ)。

 職業は整形外科医。今年妹が結婚するまで無類のシスコンだった奴だ。
 
 通話アイコンをタップして耳に当てた瞬間、《よっ、若旦那》と壮二の声がする。

「壮二、暇そうだな」

《いやいや、それなりに忙しいさ。朝(あさ)陽(ひ)が今夜は時間が空くとかで、久しぶりに三人で飲みに行きたいと思ってね》
 
 朝陽とは、桜(さくら)宮(みや)朝陽のこと。彼も幼稚舎からの友人だが、家業である航空会社のパイロットになるために中学からアメリカに留学し、見事最年少機長になった。

< 22 / 158 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop